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来ないことを知っていた
俺はハルが嫌いだ。
何が嫌いかと問われても、嫌いだから嫌いだとしか表現できない。
明るく笑う顔も、走り回れるその体も。
それと、俺がちょっといいなと思っていた女子から連絡先を聞かれる様子も。
――いや、別に妬んでるワケじゃねぇんだけど。
俺がどんなに遠ざけてもズケズケと入り込んで来るその全てが気に食わなくて⋯まぁ、結局俺は羨ましかったのだ。
俺には明るく笑えるような未来も、走り回れる体力も⋯何も、無かったから。
いつも俺の病室に飛び込んで来ては大騒ぎして帰るハル。
「早く桜咲かないかな」なんて、知らねぇよ。
病院だってわかってんのか?騒いでいい場所じゃねぇ。
そんな俺の小言を笑って流すハルの事がやっぱり嫌いだった。
――だから俺は、知らないフリをしていたのだ。
ハルが、いつも病院にいた理由を。
「本当、心底嫌いだわ」
俺の口から溢れる文句は雫となってシーツに染み込む。
ハルには、春が来なかった。
あんなに桜を楽しみにしていたのに。
“でも、安心しろ”
「きっと俺にも来ねぇから」
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