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雷鳴が轟く空に、プロペラやエンジンなどを付けた木造の船が飛んでいた。 それは飛空艇という。 冒険者ヘリオスが、遺跡から発掘した設計図をもとに開発した船だ。 ヘリオスは飛空艇の開発を独占することなく、世界中に設計図をバラまいた。 そのため現在は、世界中の人間が空へと飛び立っている。 「これが最後だ、ヘリオス! 若い頃はいろいろあったが、お互い水に流そうじゃねぇか!」 今にも嵐が起こりそうな空には、大砲で武装している飛空艇が何隻、何十隻と見えた。 その先頭に立つ飛空艇の船首から、男が声を張り上げていた。 短い金色の髪をした、細身だが背が高い男だ。 腰にはピストルとサーベルが見え、声を発しながら笑った顔をしているが、目が笑っていない。 「俺の空賊団は世界中に百万、いや、一千万はいる! その兵力と、お前が遺跡から手に入れた古代魔法が書かれた魔導書があれば、明日にでも世界を支配できるぞ!」 金色の髪をした男の名はカロス。 自身で口にしたように、世界的な空賊として、飛空艇の大艦隊の首領と知られている。 カロスが誘っている男はヘリオスだ。 ヘリオスは、これまでも何度もカロスから同じ誘いを受けていたが、いつも断っては戦い続けてきた。 しかし、今回は状況が最悪だ。 なんとカロスは、ヘリオスを脅して仲間に引き入れるために、世界中から集められるだけの空賊たちを呼び寄せたのだ。 いくらヘリオスの乗る飛空艇が他の船よりも性能がいいとはいえ、この戦力差はどうしようもない。 「俺と来い、ヘリオス! すでに空を支配している俺たちだ。今度は地上を手に入れようじゃねぇか! 俺たちが組めば、あのクソったれな統一修道会すら壊滅できるぞ!」 「悪いが断るよ、カロス」 ヘリオスの乗る飛空艇と向かい合っている船から、長い黒髪を束ねた男――カロスが返事をした。 その柔らかい口調とは裏腹に、冒険家らしい屈強な体をしている男だ。 「そんなつまらないことに興味なんてないって、何度も話してるだろ? まあ、統一修道会は嫌いだけどさ。僕はただ冒険を続けたいだけなんだ」 カロスが率いる飛空艇の群れが、一斉に砲台の照準をヘリオスの船へと向けた。 それでもヘリオスは気にしない。 むしろ自分の乗る飛空艇の大砲を向け返すように、仲間に指示を出し始めている。 「大体、世界なんて手に入れてどうするんだよ? そんなの面倒なだけじゃないか。だから断る」 「おい、俺はこれが最後だと言ったよな? その言い方だと、ここで殺してくれって意味で受け取るぞ、ヘリオス!」 「僕は冒険を続ける。世界は手に入れるものじゃなくて、隅々まで調べるものなんだよ、カロス!」 世界的な空賊の大首領と知られるカロスと、冒険家として、その名を世界中に轟かせているヘリオスが激突。 後にこの戦いはブラッドスカイ空戦と呼ばれ、絶体絶命と思われたヘリオスの船は、悪天候だった空に助けられ、カロスの大飛空艇艦隊のほとんどが墜落。 勝負は痛み分けとなり、両者ともに生き残った。 それから三年後――。 カロスは、まだヘリオスを追いかけていた。 ブラッドスカイ空戦での被害から兵力を立て直し、再びヘリオスを力づくで誘おうとしていたのだ。 だがカロスの考えは、想像もしていなかった出来事によって、もろくも崩れ去る。 「なに!? ヘリオスが殺された!?」 ヘリオスは統一修道会に制裁を受け、神殿騎士のラビュトスという男に始末されたという話が、世間をあっと驚かせた。 それを配下の空賊団から聞いたカロスは、激しく動揺し、アジトに集めていた者らの前で声を荒げる。 「そんなデマが信じられるか! あの野郎がどれだけ強い男か、テメェら知ってるだろ!?」 カロスは、ヘリオスがラビュトスの倒されたことを知らせてきた男を、ピストルで撃ち殺した。 配下の空賊たちが、慌ててカロスの落ち着くように声をかけたが、彼は止まらなかった。 まるでやり場のない怒りをぶつけるかのように、駆け寄ってくる配下たちをサーベルで斬り殺す。 元々味方にも厳しいことで知られるカロスだったが。 この件から、彼の人望はさらに地の底に落ちた。 これまでも恐怖による支配で従っていた者たちも、カロスのあまりの横暴ぶりに――いや、ヘリオスへの執着に嫌気が差したのだ。 今までの横暴も、それが空賊団への利益のためならば我慢できた。 しかし、もはや男一人の死に情緒不安定になるカロスに対して、配下たちの心は完全に離れてしまう。 「テメェら、俺に殺されてぇのか、あん!? いい加減なこと言ってんじゃねぇぞ!」 それでもカロスは気にしなかった。 彼は配下に何を思われようがどうでもいい。 所詮は、戦う前から自分に威圧されて従っているような連中だ。 そこに信頼などない。 「あいつが……ヘリオスが騎士ごときに殺されてたまるか! あのくそったれは、この俺が認めた男だぞ!」 カロスはアジトで暴れ回った。 そして、配下を何十人も殺した後、怯える彼らを残して一人その場から去っていく。 「信じねぇ……信じねぇぞ……。そんなこたぁ、絶対に信じねぇぞ、俺はぁぁぁッ!」
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