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――とある街にある統一修道会の大聖堂。 豪華な飾りなど一切ない、まるで城塞のようなカセドラルだ。 一応、彼らの神を崇めるための最低限の装飾――ステンドグラスやブロンズ像などはあるが、司教座のある教会というにはあまりにも無骨な建物だった。 この大聖堂も世界中にあるものの一つで、ある意味では神父に修道士、さらには神殿騎士などが、自らの権威を示すものになっている。 そこでは週に一回は必ず周辺の民たちを集め、祈りがささげられる場所ではあるのだが、今夜は別の客が来ていた。 「侵入者です! 場所は中央塔内部!」 「敵の数は!?」 「一人です! 敵は、空賊カロスただ一人!」 カロスはアジトで暴れ回った後、統一修道会の大聖堂へと来ていた。 いや、来ていたというよりは、むしろ目に入った修道士を片っ端から襲い、中へと入ったといった感じだ。 右手にサーベル、左手にはピストルを持ったカロスの通った廊下には、血塗れになって動かなくなった者たちが、無惨にも転がっている。 カロスはそのまま身廊を進み、中央交差部から大広間へと入っていった。 その移動中にも虐殺は行われ、止めようと向かってきた神殿騎士を斬り、恐怖で腰を抜かして動けなくなった修道士は次々と撃ち殺された。 清い心を表すかのような白い大聖堂内は真っ赤に染まり、カロスただ一人が現れただけで、中は血の海となる。 「ヘリオスが、テメェらみてぇなクズ坊主どもに殺されるはずがねぇんだ……。金の亡者の集団に……あいつが殺されてたまるかよ!」 大広間の高い天井が、カロスの声をさらに響かせた。 集まっていた神殿騎士たちは、そのあまりの迫力に近づけずにいる状況だ。 「聖域を侵した罪で、ヘリオスは我々に始末された。それが事実だ」 そこへ男が一人、カロスの前に出てきた。 その男は他の神殿騎士とは違い、全身を白いフルプレートの甲冑を身に付け、鉄仮面をしているため素顔は見えなかった。 カロスは、この男を知っていた。 配下から聞かされていた特徴と同じ――この男がヘリオスに直接手を下した神殿騎士ラビュトスだった。 ラビュトスは剣を抜くと、カロスへさらに歩を進める。 「ヘリオスは行き過ぎた。飛空艇を世界へ広め、他にも多くの禁忌を民に知らせたのだ。そのせいで勘違いする者が増えたが、それももう終わった。これでようやく統一修道会の教えを、世界に伝えることができる」 「教えだぁ……? くだらねぇこと言ってんじゃねぇ! あいつが俺の言うことを聞いてりゃ、統一修道会なんてもんは壊滅して、俺たちが世界を手に入れていたんだ!」 カロスは凄まじい形相で吠えた。 しかし、その瞳には涙が滲んでいる。 怒りと悲しみ、その両方が入り混じった複雑な表情だ。 「仲が良かったなんて口が裂けても言えねぇが、あいつとはこのクソみてぇな時代を一緒に生きてきたんだよ……。誰にも……自分の信念を譲ることなくな!」 「空賊の大首領カロス……。噂では血も涙もない男だと聞いていたが、随分と女々しいな。それだけ慕っていたのなら、奴が生きているうちに、貴様の気持ちを伝えるべきだったのではないか?」 「うるせぇんだよ、仮面野郎! それが俺たちに対する侮辱だってのが、わからねぇのか!?」 カロスはラビュトスの言葉に耐えきれず、飛びかかった。 ピストルを撃ちながら距離を詰め、サーベルで斬りかかる。 フルプレートの甲冑を身に付けた相手に、自殺行為もいいところだが、今のカロスはそこまで頭が回らない。 ただでさえ頭に血が昇っていたところ、ラビュトスとの問答によって火に油が注がれたのだ。 もはや理性など、ヘリオスの名をラビュトスが出したときから吹き飛んでいる。 そんな彼とは対照的に、ラビュトスは襲いかかってきた敵に冷静に対処する。 振り落とされたサーベルを剣で受け、体をぶつけて下がらせる。 鋼鉄の甲冑でぶつかられたカロスが態勢を崩すと、ラビュトスは彼のピストルを持った左腕を切り落とした。 「ぐぅッ!?」 「私が橋渡しをしてやる。あの世でヘリオスに貴様の想いを伝えるといい」 「腕の一本や二本で怯むかよ! 死ぬのはテメェだ! 地獄でヘリオスに言っとけよ! 俺の誘いを断ったのは間違いだったろってな!」 カロス、ラビュトスの戦いは、大聖堂を破壊するほど壮絶なものとなり、決着をみた。 左腕を切り落とされ、さらには多勢に無勢――他の神殿騎士たちも戦闘に加わり、カロスはヘリオスの仇を討つことができずに敗れる。 かくして、ここに世界中に名を轟かせた大空賊カロスは、統一修道会の神殿騎士ラビュトスとその仲間たちによって始末され、その死体には火が掛けられた。 大聖堂が彼の墓標となったのである。 「……ガハッ! こんなもんでぇ……死んでぇ……たまるかぁぁぁッ!」 だが、それでもカロスは生きていた。 左腕と右目を潰され、全身を焼かれながらも彼は、崩壊して灰となった大聖堂から立ち上がった。
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