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――森の奥には魔女が住んでいる。
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大昔、世界は悪魔によって呪われた。病気、災害、戦争、貧困……世界はありとあらゆる苦しみに溢れていった。悪魔と契約し、その力を与えられた眷属たちは、いつしか呪いによって苦しむ人々を哀れみ、生け贄と引き換えにその力を貸すことを約束した。
その眷属たちを、今日では「魔女」と呼ぶ。
魔女は、そこいる。悪魔の力を人間のために使う代わりに、生け贄を求める、尊くも恐ろしい存在。
――それが、僕が小さな頃から聞かされていた魔女の言い伝え。
だけど、現実は少し違っていた。
言い伝えと違って、もう少し怖くないというか、間が抜けているというか……。
「魔女様、起きてください」
反応がない。僕はすぅっと息を吸い込んで、もっと大きな声で言った。
「魔女様! 起・き・て・下・さ・い!」
「うーん……嫌だ」
目の前で机に突っ伏したまま眠る魔女様は、寝ぼけ眼をこすろうとすらしないまま、そう呟いた。たまのことなら見逃すが、これが5日連続というのだから、もう容赦しない。
「いい加減に起きてください! もう昼です!」
毛布代わりに被っていた上着を引き剥がすと、魔女様は恨めしそうに僕を睨んだ。でも寝ぼけた顔ではまるで怖くない。
「生け贄くんは厳しすぎる。私は昨日も徹夜だったんだぞ?」
「寝る時はベッドでと言ったじゃないですか。守らない方が悪いんです」
魔女はまだぶつぶつ言っていたが、僕が机に遅い朝食を並べるとぴたりと文句を止めた。
「生け贄くんは昔と違って厳しいが、料理が上手くなったな。洗濯も掃除も、何でも」
「そりゃ、どうも。おかげで魔女様は家のことは何もしなくなりましたね」
「いいじゃないか。君の方が上手いんだから。昔は私の半分ほどの背丈で、よく失敗していたのにな」
「何年前の話ですか」
「さぁ……何年前かな」
魔女様はそう言うと、切り分けたパンを思い切り頬張った。
僕はというと、魔女様の問いに首を傾げていた。彼女があんな曖昧な言い方をした後は、いつも必ず頭がぼんやりする。
僕がこの家に来たのは、はたして何年前のことだったか……?
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