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「違う土地に? 何故、僕が……」
「君は、その……生け贄だからだ」
「はぁ?」
思わず首を傾げてしまった。だが魔女様は、僕以上に首を捻って言葉を紡ぎ出そうと努めているようだった。
だけど、魔女様は話すのが得意じゃない。こういう時、上手く説明したりごまかしたりすることは苦手で、すぐにこうして黙り込んでしまう。
つまり、僕に本当のことを言う気はないということだ。
そう思ったから僕は、もう一つの疑問を口にした。
「僕が18才になったから、と言いましたね。どうして僕の年齢と関係があるんですか?」
「もともと、そう決めていたんだ。君が18才になったらここを離れると」
「じゃあ、僕は貴女を引き留めていただけだったんですね……とんだ邪魔者だったんだ」
「それは違う」
「だって、そういうことでしょう! 貴女を縛り付けるものは何もなかったんだ、僕以外は!」
空気が、ビリビリと震えた。僕の怒りと焦りに、内に眠る魔力が呼応して空気に伝わった。皮肉なことに、魔女様から教わったことが効果として現れたようだ。
「いい魔力だ。君はもう、十分、一人前としてやっていける」
「……それが『18才』の理由なんですね。わかりました」
僕は今度は静かに立ち上がった。彼女の手を煩わせないように。
きっとこれ以上、何も答えてはくれないだろう。いや、どう答えれば良いのかと困らせるだけだ。
だったら、僕が最後にできるのは、もう世話を掛けないということだけだ。
魔女様に背を向ける僕に、声が飛んできた。
「どこへ行くんだ?」
いつになく、焦りを含んだ声だ。子どもの頃からよく聞いていた、遅くならないように、と言う時の声と同じ響きだ。
「帰るんです。僕はもう用済みなんでしょう?」
そう言い、乱暴にドアを閉めた。背後から引き留める声が聞こえたが、耳を塞いで僕は走った。その声を聞いていたら、帰れなくなりそうだった。
僕は、帰るんだ。彼女から離れて、もといた村へ。
だってもう用済みだから。僕がいてもいなくても、彼女は何も変わらない。むしろ彼女の足を引っ張るだけだ。
村へ帰れば食い扶持は増やしてしまうかもしれないが、働き手にはなれる。魔女様に教わった薬草の知識も役立つかもしれない。
自分が少しでも役に立てるところに行くだけだ。まして生まれ育った村なんだ。帰っていいはずだ。
そう思うのに、どうしてか、後ろ髪を引かれる思いでいる。気を抜くと、引き返してしまいそうだ。
僕は家に帰りたかったのか、帰りたくなかったのか、どちらなのか。
夜の真っ暗な森を進み、いつもの傷跡の大樹まで来ても、まだ迷っている。
ここまで来ればあと少し。ここを右に進み、白い花を頼りに進めば――
「……あれ? 本当に、そうだったか?」
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