風景論~雨

13/17
前へ
/17ページ
次へ
 こんなことはささやかなことなのだ。 雪の道で手をひいたり、ましてやコートの一枚などは(たとえそれが二枚でも)。 フレディには慣れたこれらの行為を、感謝の対象とされては居心地が悪い。 当然為されるべき配慮として身についているただの習慣なのだから、意識した親切とは異なるのだと思う。 助けようと考え動いたわけではなく、助けたいと望んで生まれた結果でもない。  対して彼女の言動は、なんとも言葉に表しにくい。 彼のためではないのだと思われながらも、彼のためにはなっている。 心配の意図は明確に感じられる。 彼を心から案じてくれていると、疑うべくもない接し方である。 けれどすくい上げてくれる手は、むしろ何気ない言葉に宿されていた。 楽観的に多角的に、柔軟な中にも誠実に。紡がれる言はあざやかだ。 まるで対さず彼女にも、ただささやかなことであるのかもしれない。 突然の雨にこのように、友人なら雨やどりの場所へと導くように。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加