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満ち足りた思いで景の移ろいを眺めることしばし。
やがて、やってきた光が葉の間から差し込んでいることに気付き、ふと心に疑問が生まれた。
目前の、陽光などにまるで構わず、勢い落とさぬこの雨が、
「ずっと止まなかったらどうしようか」
雨やどりとは、晴れるまで永遠に続けるものでは決してない。
「走って帰るしかないわよね」
当然。うなずく訳知り顔がおかしくて、フレディは知らず笑っていた。
そうして、しようとしていたことをするわけだ。
けれど気持ちが戻っている今は、雨を浴びるのも悪くない。
走る自分たちを想像すらする。足元に跳ね上がる飛沫さえ、楽しげなものとして在る、少し先の時などを。
一瞬ステッキが頭に浮かんだが、思考変幻の忙しなさに、持ち主である老紳士につながる前に押し流されて消えていた。
掠めるような泰平の笑み。今なら理解も及んだだろうが。
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