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家に走りこむつもりであったのに、着いたのは大樹の下(もと)だ。
今ごろは肩に多少はかかったであろう雨粒を、手ではらっているはずだった。
緑に座り木にもたれ、しきる雨を映している。
居間に座り、暖炉にかざしているはずの足を、草の上に投げ出す羽目になろうとは。
灰色の空がのしかかる様に、雨の音しか聞こえぬことも作用して、閉じ込められているような心地になった。
拠りどころと言うなら、背にしている大樹が唯一。
けれどまるで罠のように、この木の下に鎖されているのだ。
ここから出て行くことはできない。
一歩でも踏み出したなら、幾百の水糸に襲いかかられてしまう。
草を濡らし土に跳ねる滴の確かな力強さを目の下に見れば、気持ちはうんざりと落ちていく。
この間にも雨は一層の激しさを増し、町並みは水煙の向こうに霞んで遠ざかっていた。
白くしっとりと風に揺れている煙は、見るだけの優雅とはかけ離れ、轟と音を伴っている。
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