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「でしょう。音を聴いて。水の中なのに音は一つずつよ。葉っぱに水の跳ねる音」
ぴちょん、と。ちょうど近くで葉が鳴った。
音の出所を探し、二人は目をめぐらせる。音はいくらでも後から続き、どちらからともなく声を立て笑い出してしまった。
雨の中、木の下に居て水音を探すなど。
「雨やどりなんて。子供の頃はしていたけれど」
「憶えている?」
「こんな時間があったよ。匂いを憶えている」
嫌いだったわけではない。雨だからこそできる遊びに、子供のころは駆け出していた。
曖昧に、色のない情景がとび交っている。彼の昔日にも大樹は在った。
葉の形も枝もすべてが違えど、やはりこんな風に抱えるように、小さな部屋を持っていた。
「たまにそうして戻ると、とてもいいものに思えない? 持ち続けて慣れているよりも素敵に思えはしないかしら」
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