鍛冶屋の望春

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 望春の肩を組みながら白娘が鍛冶場の外に出ると、お天道様が出ているのにもかかわらず冷たい雨が降り注いでいた。  郷堂がいない今、きっとこのままいけば水門を閉じることが出来ずに、この地は水に沈むかもしれない──。  一抹の不安が白娘の頭をよぎるも、実際白娘にはそんな事は何一つどうでも良かった。 「陰に舞う雨 心を乱して」  ゆっくりと白娘は、鳥が囀る様に唄を歌う。 「守の天龍や いざ給え」  力無く応える望春は、泣きそうな声で歌う。 ──もしも守り神がこの世にいるのなら、もっと雨が降れば良い。  降って降って降りしきって、絡みつく不幸の全てを洗い流して仕舞えば良い。  歯を食いしばって望春を運ぶ白娘の前には、とうにうねりを増した川が血相を変えて日光を翻す。  普段は美しいとすら思うその光景に、紅く煮え激る鋼の影を重ねた白娘は救いようの無いその全てに「ははははは……」と、初めて声を上げて笑う。 「待ぁてぇ……ッ」  簪を持ちながら肩を抑えた郷堂は、三途の川の赤鬼みたく白娘と望春の元へ歩みを進める。  白娘の覚悟はとうに決まっていた。  美麗な帯を解いて望春に巻きつけ、その片側を自分に括り付けた白娘が郷堂を一瞥すると、白娘は望春を抱えたまま白魚の様に川へと跳ねる。  地面を蹴る感触、空を飛んだようで地面へと向かう感覚、ひんやりと目から耳、全身に抜けて染み込む水──。  その全てが初めてであって、全てが最後。  短い人生の中で1番の安寧を手に入れた白娘は、愛する望春と共に川となった。
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