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白娘と望春の遺体は、10日後に川の下流で見つかった。
美しかった白娘も、醜かった望春も、一様にふやけた肉片が薄汚い帯に絡まるだけで、何一つ誇れるものなど持ち合わせていない。
浅い刺し傷で死ぬ事などあり得なかった郷堂は、まだ痛む肩を抑えながらその肉片を蹴散らかした。
「気に入らん……気に入らん……!こんなに温情を掛けてやったのに、一体何が不満だったのだ!」
まるで駄々っ子が無いものを強請る様なその醜態に、村人達は興醒めて家屋に閉じ籠る。
それから暫くして郷堂は、郷堂のお屋敷がある川岸に何度も供養を重ねて白娘の塚を慎ましく設けた。
そして嫉妬の故に投げ捨てられた望春の遺体は、郷堂の命で晒されるも、哀れに思った村人達が郷堂の目の届かない様に……と川を超えた白娘の塚の向かいにそっと塚を築く。
やがて郷堂が死に、村人も死に、子供、孫の代を超える時の流れの中──塚の根元から生じた木蓮は今日も風に白い花弁を揺らす。
もう地元の住民でも、いくつも歳を重ねた老人しか知らない程に深く埋もれた、悲しき恋の物語──。
─fin─
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