鍛冶屋の望春

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 駕籠に仕舞われて郷堂の御屋敷に運ばれた白娘の生活は、奴婢から姫へと大きく変わったようで、その実は人買いの陳列と大差無かった。  あれから5年経った今とその時とで違うのは、身の回りが格段に豪華になった事、見える外の景色が四季の移ろう自然と川のみになった事……それから、20を超えた白娘が番茶も出鼻の年頃と熟れた事。 そして──。 「近う寄れや……白娘」  小さな窓から見えるお天道様が傾いて室内が薄暗くなると、郷堂は決まって白娘の元に現れて夜這う。  その行為は「優しい暴力」とでも言うべきか、愛撫と束縛を繰り返す郷堂のソレは白娘の体と心を蝕む。 「あぁ……っ」  決して繋がろうとはしない郷堂の指先に弄られて身体を身震いさせた白娘は、虚な瞳のまま甘い声を上げる。 「汝は純潔だ……誰の色にも染まる事の無い全てが、ここで色を帯びてゆく……美しい白娘よ」  白娘の体を知り尽くした郷堂は、優しく白娘の内腿を優しく撫でては満足げに笑う。 「罪作りな女……だなぁ」  膝小僧に口付けを落とし、そのまま舌を滑らせて白娘の体を昇る郷堂は、焦らす様に臍の下を擦ってツクツクと喉を鳴らした。  猫の前の鼠となった白娘に出来るのは、郷堂が与える快楽を享受してそれに飲まれる──ただそれだけである。  笑う郷堂の吐息に身を捩らせながら白娘が郷堂の手を握ると、郷堂はその手を引いて自らの指を絡ませた。  蛇のように陰湿で、鷹のように鋭い視線を交えた郷堂の体が白娘に伸し掛かると、絡めた手を解いて白娘の手に固くなった自身を押し当てる。 「汝のせい、だろう?」  不敵に笑う郷堂は白娘の手の上に手を重ねてそれを包み込むと、白娘の首筋を舌先でなぞってから甘噛みしてみせた。  白娘の指が、郷堂の上を静かに滑る。  しっかり郷堂に仕込まれて所作が染み付いた白娘は、慣れた手付きでその細くしなやかな指を伸ばし、全身に浴びた執着的な愛情を翻して郷堂を喜ばせた。  腰を震わせて欲情を吐き出した郷堂と、布が擦れるだけで震える白娘──。  お互いが何度達したかも分からないその淫靡な牢獄の中ですら、郷堂は白娘を生娘のままにしている。 ──白は穢れてはならない。  その狂信的なほどの『白』への意識が、郷堂という獣の手枷足枷となって、神聖で純真な白娘を仰々しく守っていたのだった。
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