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山道で追い越しただけなのに
高齢者の暴走事故が多発している。私の母はまだ高齢とまではいかないけれど、久しぶりにその助手席に乗せてもらって愕然となった。とても危なっかしいのだ。
事故を起こす前に免許の返納をすればと勧めたら、母はあっさりと承諾した。
が、それが徒となった。母が暮らすのはドがつくほどの田舎。車がないと普段の生活がままならない。ということで、母は私を頻繁に呼び出すようになった。
実家がある集落は山をいくつか越えたその先にあった。そこに通じるのは一本の県道のみ。山を縫うように通っているので片側は常に谷に面している。道幅は対向二車線分あり、ガードレールが設置されているものの、過去にはそれを突き破って下に転落した事故も起きているそうなので注意が必要だ。
今日も母に呼ばれ、右へ左へと曲がるその道を私は一人走っている。こんな田舎道だと他の車とはめったに出会わないのだけど、今回は珍しく前方を走るトラックが見えた。近づくにつれ見たことのある運送会社のものだと分かった。道に不慣れなのか重い荷物を積んでいるのか、とろとろと低速走行だ。
こんなところに運ぶものなんかあるのかと思うものの、人が住むところには何がしか届くものがあるのだろう。
私が運転する車は完全にトラックに追いついた。しばらくその後ろを走るうち、だんだんとイライラしてきた。いったいこのトラックはどこまで行くのだろう。まさか母の実家まで一緒ってことにはならないかしら。この調子で走られたら母のところに着くのは随分遅れることになりそうだ。
ちょっとだけ車をセンターラインに寄せ、トラックの前方を見てみた。その前を走る車はないし、反対車線から来る車もない。
よし。と私は自分に気合をいれ、右にウィンカーを出した。アクセルを踏み込み、ハンドルを右に切る。本当は絶対にやっちゃいけないけど、反対車線を走ってトラックを追い抜いた。十分に距離をとってから本線に戻る。
バックミラーで後方を確認した。トラックとの距離はどんどん離れていく……と思っていたらそうはならなかった。トラックは私の車を追いかけるようにぴたりとついてくる。それどころかヘッドライトをパッシングしながらクラクションも鳴らしてきた。
え?うそ。私、煽られてる?
ちょっと、勘弁してよ。追い越したことが気に食わなかったの?それならもっと早く走ってくれたらよかったのに。現に今はしっかりスピードが出ているのだし。
とにかく追突でもされたらかなわないからトラックと距離をとろうと速度を上げた。もちろん運転には細心の注意をはらって。
それでもトラックは追いかけてくる。どんな人なのかと気になるけど、運転席まで確認している余裕はない。
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