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第1話「犯人、アテかもせえへん」
——足りない。
会場を埋め尽くすほどの喝采でも、この物足りなさは補えない。
——味気ない。
あふれるほどの畏敬と羨望の眼差しを浴びても、この飢えは満たされない。
——つまらない。
言葉を尽くした栄誉も賛美も、この退屈を紛らわせてはくれない。
そんなに難しいことではないはずだ。
誰もが分かってくれるはずだ。
求めるのはただひとつ。
この錆びついた心が震えるほどの、色を失った脳が沸き立つほどの、冷めきった情熱が再び燃え上がるほどの、“謎”。ただそれだけだ。それだけを求め続けた。飽きて飽きて、飽きることにも飽きるほど。ひたすら、それだけを。
だから、私がそれに気付いたのはきっと必然だったんだ。私以外がそのことに気付くのは不可能だったはずだ。だとすれば、あれは運命だったのかもしれない。今まで特別意識したことのない言葉が、自分のことになると、急に輝きだすのが不思議だった。運命を前に、ちょっとした障害なんて問題にならなかった。少しだけ面白いと思ったけれど、そのときはもっと魅力的なものに夢中だった。
「だからさ」
一旦、言葉を止めた。目の前で走っていたペンが止まる。うーん、なんて言おうか……うん、こう書かせよう。
「あれは本来そういうものなんですよ。面白くないですか?」
退屈しのぎにはなったかもね、なんて。思わず顔が綻んだ。ペンは動きを止めて、しばらくそのままだった。
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