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1.問題は、ない、はず
薄い赤茶の髪に黄目が映える優等生。
魔法アカデミーに通っていた人でテオドール・ユースティナの名前を知らない者はいなかった。
それだけ彼は優秀だったから。
残念ながら学年が違った為に在学中は関わることなどなかったが、その厳格な雰囲気と緻密に練り上げられた魔法はとても美しく、私もそんな彼に憧れている一人だった。
『いつか彼のようになりたい』だなんて、こっそり彼の魔法の真似をしたり、彼が取っていた講義を取ってみたり。
話しかける勇気などはなく、私の淡い初恋だとそっと胸の内に秘めて――
“まさか卒業した今、彼が私の婚約者として我がロヴィーシャ家に住むことになるなんて思ってもみなかったわ⋯”
そしてそれ以上に。
「⋯はっ、今日もその陰鬱な顔で俺の前に現れるな、気が滅入る」
「それは申し訳ありませんでしたっ、失礼致します!」
“彼がこんなに口も態度も悪いだなんてもっと思ってなかった!!!”
顔を合わせればすぐに毒を吐いてくる婚約者にベッと内心舌を出した私は、進行方向を変えて自室へ戻る。
「陰鬱そう、か⋯」
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