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立ち上がり、踵を返した由乃の背中に、華絵の言葉が刺さる。
「いつまでたってもお嬢様気分が抜けないのだから。ただの使用人に成り下がったくせに。いい加減弁えなさいよ!」
それは、もう何度も言われた言葉。華絵はことあるごとにそう言って、由乃の心の傷を抉る。
ひとつ上のいとこは、昔から由乃を嫌っていた。それは由乃本人にもわかっている。本家の娘というだけで、鬼神様のお嫁様候補になり、輔翼の家というだけで四鬼神の家から援助金がもらえる。そんな立場だった由乃に、嫉妬していたのかもしれない。
由乃の両親が亡くなってすぐ、蜷川の本家に叔父家族が乗り込んできた。叔父の元治は、どこで手に入れたのか「自分の死後、全てを元治に譲る」という旨の徳佐の書残しを持っていた。そして、蜷川の本家は自分のものだと主張した。徳佐が経営していた建設会社も、いつの間にか秘書の男によって牛耳られ、なにもわからない由乃は、なすすべもなく、全てを差し出すしかなかった。
「ああ、由乃様! なんと酷い……」
居間を出ると、ヨネが由乃に駆け寄った。由乃の背中には、味噌汁がびっしょりかかっていて、地味な着物と帯を汚している。首元からも入り込んでいるようだ。
「ごめんなさい。床を汚してしまったわ。あとで拭いておくから……」
「そんなことを心配しているのではありません! やけどをしていないかを心配しているのです!」
「やけど……ああ、大丈夫よ。今は熱くないから」
「……由乃様……」
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