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衝撃が走った。まさかと思い、二度見してしまったほどだ。
(なんだ? あんな人、ジムの会員にいたっけ? まさに理想なぽっちゃりさんだ!)
視線が合い、俺は直ぐに挨拶に向かった。
白井優里さん、25歳。髪はミディアムで、少し重めの黒髪。
後々、ジムの会員リストを調べると、身長168㎝、体重むにゃむにゃkg。なるほど高身長の絶妙なぽっちゃりだ。
探していた逸材が今、目の前に!
俺は、このジム『stone』のオーナー柳田昴。系列店は全国に124店舗、その他に『vegeta』というカフェを経営している。父から受け継いだ店舗は今のところジムとカフェのみだが、実を言うと父親はアパレルや飲食店など幅広く展開していて、将来的には自分が全て引き継ぐこととなっている。
俺は『stone』の売り上げアップを目標に日々努力を重ね、趣味であるマッスルトレーニングも欠かさず行なっている。
「趣味と仕事両方の実益を兼ねてってことで」
ジムの様子を見るために、『stone』に顔を出すようにはしているが、その正体は明かしていない。ジムのオーナーで金持ち、実業家の御曹司だと知られれば、女性からのアタックが凄まじいことになるからだ。
面倒事は避けねばなるまい。
「俺に寄ってくる女は皆んな、金目当てばかりだからな」
今まで付き合った女性も何人かはいた。恋人たちは、高価な食事やブランドのプレゼントをねだり、俺をハイブランドのアクセサリーかなにかだとしか思っていなかった。そして、いい加減嫌気がさして別れるとなると、ごねて慰謝料をふんだくっていった。
正直、辟易していた。恋愛というものに、幻滅すらしている。
「恋なんて、金は取られるし気は使わなくちゃいけないし、疲れるだけだよ」
ここ数年、恋人のいない生活を送っている。気楽だし一生これで良いかもと思っているほどだ。
だから、ジムの会員の女性に声を掛ける時も、深い付き合いにならないように気を使っている。挨拶程度の表面上だけの付き合い。
「柳田さん、良かったらこのあとお食事にでもどう?」
「桃井さんはご結婚されてるでしょ? 私、既婚者とのお食事はお断りしているんですよ」
誘われても、はっきりNOを貫いてきた。
ただ、正体を明かしはしないが、会員へのフォローはしている。
俺が「頑張りましたね」と声を掛ければ、
「私もっと頑張ります!」
となり、皆がさらに筋トレに力を入れる→プロポーションが良くなる→口コミで評判になる→ジムの会員が増える、となり、男性においても、柳田くんのような筋肉をつけたい→細マッチョが完成→口コミで評判になる→ジムの会員が増える、となるからだ。
「会員の皆さんは歩く広告塔なんだよ」
父親からのアドバイス。それを実践している形だ。その成果あってか業績はまあまあ。緩やかではあるが、右肩上がりに推移している。
「あの白井さんが、このジムで完璧に痩せたら、これも良い宣伝になる」
そう思って近づいた。
ビフォーの写真は手に入れた。さあ、これからが勝負だ。
なんとしても痩せさせなければならない。
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