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会社の帰り道、いつものようにジム『stone』に寄る。運動をして汗を流すと、普段の鬱憤が拭い去れて、スッキリするみたい。
最近は、身体も少し軽やかになった気がする。
「調子はどうですか? 体重に少し変化があったようですね」
小型のダンベルを持って現れたのは、柳田さんだ。笑顔と筋肉が完璧なジム会員さん。なぜかいつも声を掛けてくれる。
ピカピカな笑顔に肉体美。うはあーー今日も眼福でございます。
「調子はいいです。少しだけですけど、体重減りました」
にこと笑みを返す。
「そうみたいですね。頬が少し細っそりされたようだ」
私はフィットネスバイクにまたがりながら、鏡を見た。
頬? あんま変わらない気もするが……?
首を傾げていると、
「優里さん? 少し元気がないみたいですが……」
と、心配顔をくれた。柳田さんの優しさ。それは、あらゆる女性、もといあらゆる人類に向けられたものであるとわかっているけれど、この日は少し凹んでいたからか、自分の中の弱い部分が出てしまった。私はつい会社であった出来事を話し始めてしまったのだ。
「すみません。今日、職場でちょっと引っかかることがあって……皆んなと意見が違ってしまったんです。私の感覚がおかしいのかなと思ってですね……」
私は柳田さんの顔色を窺った。
端正な顔に理想的な筋肉。イケメンはいいな、あまり悩みなどないだろうな、勝手にそう思ってしまっていた。
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いま、俺はお悩み相談を受けている。
ここは深みにハマる前に早めにこの場を立ち去った方がいい。そう思うのだが、あとひとつだけ! 白井さんに痩せるためのアドバイスをしたい!
そんな気持ちがあったものだから、まあ少しくらいなら話を聞いてみよう、それからアドバイスをして、フェードアウトすればいい。
と、思っていた。
「何があったんです? お聞きしますよ」
「ありがとうございます。実はですね。私がジムに通ってるって話をしたら、職場の同僚が、白ちゃんは痩せなくてもいいって言うんです。あ、私白井ですから白ちゃんって呼ばれてるんですけど」
なんだって! 余計なことをしてくれるな見ず知らずの同僚よ! ダイエット存続の危機っっ。
俺は焦ってしまって、ダンベルを落っことしそうになった。
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