いつかこの晴れ模様の下で笑えますように

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
ぽつぽつと雨が降っている。 天気予報の言っていたとおりだ。 雨は嫌いだ。 それでも、外に出ようと思った。 ここしばらく家に引きこもっていたが、ずっとそうしているわけにもいかないんだ。 傘を持った。 家を出た。 …そういえば、あなたは雨が降ると嬉しそうにするのだった。お気に入りの傘をさせるからだ、と。確かにあまり見ない傘かもしれない。 「ねぇ、すごいでしょ。」 青空色に、真っ白い雲の浮かんだ、晴れた空模様の傘をくるくる回しながら、この間見つけたのと楽しそうに笑う。 「何がすごいの?」 「だって、こんなにどしゃ降りなのに、私だけ晴れなんだよ。」 傘にあまり大きさは無いから、あなたのリュックはぬれていたし、あなたのスニーカーもズボンの裾もびしょびしょだった。それでもあなたはご機嫌に言った。 「この傘をさすとね、やってやったぞ!どうだ!って気分が良くなるの。この傘の下にいる私には、雨なんて目じゃないんだから。」 いい傘でしょ?入れてあげようか?と、自慢気なあなたに、なんと返したんだったか。 家を出てから、しばらく雨の中を歩いていた。 傘をさしていないから、だいぶ体はぬれてしまった。 あなたのお気に入りの傘は、今、この手にある。 もうあなたが使うことはない傘だ。 雨の中、1人晴れた空の下を歩くあなたを見ることもできない。 使ってやってください、と譲られた傘はこの胸を締め付けるばかりだ。 思い出すのは、どしゃ降りの中、あなたの嬉しそうな顔。 くるくると晴れ模様を回す、得意げな顔。 ああ、確かに、どんな強い雨の中でも、あなたはいつも晴れ空の下で笑っていた。 あなたの暖かい晴れ空の下に行きたくなかった。 苦しくなるに決まっている。 それでも、傘をさした。 だって、そうしなければ。 降ってくる冷たい雫が消えた。 ぽつぽつと降る雨の中、パッと開いた傘の下は晴れ模様。けれど。 『この傘をさすとね、やってやったぞ!どうだ!って気分が良くなるの。』 「…嘘だ。」 ちっとも気分なんて良くならないじゃないか。 この傘の下は、晴れているはずなのに。 雨には濡れないはずなのに。 「……ぬれてくじゃないか。」 なあ雨よ、もっと降ってくれ。 そうして、いっそこの小さな晴れ模様を、冷たく重いどしゃ降りに変えてくれ。 あなたのように暖かい晴れ模様の下では、温かい雨にぬれてしまう。 それはとても、苦しいのだ。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!