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ぽつぽつと雨が降っている。
天気予報の言っていたとおりだ。
雨は嫌いだ。
それでも、外に出ようと思った。
ここしばらく家に引きこもっていたが、ずっとそうしているわけにもいかないんだ。
傘を持った。
家を出た。
…そういえば、あなたは雨が降ると嬉しそうにするのだった。お気に入りの傘をさせるからだ、と。確かにあまり見ない傘かもしれない。
「ねぇ、すごいでしょ。」
青空色に、真っ白い雲の浮かんだ、晴れた空模様の傘をくるくる回しながら、この間見つけたのと楽しそうに笑う。
「何がすごいの?」
「だって、こんなにどしゃ降りなのに、私だけ晴れなんだよ。」
傘にあまり大きさは無いから、あなたのリュックはぬれていたし、あなたのスニーカーもズボンの裾もびしょびしょだった。それでもあなたはご機嫌に言った。
「この傘をさすとね、やってやったぞ!どうだ!って気分が良くなるの。この傘の下にいる私には、雨なんて目じゃないんだから。」
いい傘でしょ?入れてあげようか?と、自慢気なあなたに、なんと返したんだったか。
家を出てから、しばらく雨の中を歩いていた。
傘をさしていないから、だいぶ体はぬれてしまった。
あなたのお気に入りの傘は、今、この手にある。
もうあなたが使うことはない傘だ。
雨の中、1人晴れた空の下を歩くあなたを見ることもできない。
使ってやってください、と譲られた傘はこの胸を締め付けるばかりだ。
思い出すのは、どしゃ降りの中、あなたの嬉しそうな顔。
くるくると晴れ模様を回す、得意げな顔。
ああ、確かに、どんな強い雨の中でも、あなたはいつも晴れ空の下で笑っていた。
あなたの暖かい晴れ空の下に行きたくなかった。
苦しくなるに決まっている。
それでも、傘をさした。
だって、そうしなければ。
降ってくる冷たい雫が消えた。
ぽつぽつと降る雨の中、パッと開いた傘の下は晴れ模様。けれど。
『この傘をさすとね、やってやったぞ!どうだ!って気分が良くなるの。』
「…嘘だ。」
ちっとも気分なんて良くならないじゃないか。
この傘の下は、晴れているはずなのに。
雨には濡れないはずなのに。
「……ぬれてくじゃないか。」
なあ雨よ、もっと降ってくれ。
そうして、いっそこの小さな晴れ模様を、冷たく重いどしゃ降りに変えてくれ。
あなたのように暖かい晴れ模様の下では、温かい雨にぬれてしまう。
それはとても、苦しいのだ。
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