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出会い
小鳥遊羽花が一輪車と出会ったのは、小学二年生の時だった。
夏の暑い日差しが僅かに和らぐ朝の公園。
友だちと遊ぶ約束をして、朝早くに家を出てきた羽花は、広い公園で一輪車に乗っている女の子を目にした。
たぶん、四、五年生くらいだと思う。
一輪車に乗った女の子は公園の中心で大きく円を描くように走ったかと思うと、そのまま勢いを速めて回転をした。
忙しく鳴く蝉しぐれと木漏れ日の中で、女の子の白いワンピースの裾が一輪の花のように広がる。
その瞬間、羽花は女の子から目が離せなかった。
(綺麗……まるで妖精さんみたい)
回転を終えた女の子は一輪車をこぎながら、突然ホークの肩に両足を乗せて立ち上がった。
そのまま右足を後方へ上げてバレエでよく見るアラベスクの姿勢を取る。
(転んじゃう……!)
ハッと息を呑んだ羽花の心配を余所に、女の子はその姿勢のまま公園内を優雅に走り抜けた。
そうして右足を下ろして、静かに一輪車から降車したところで、女の子は呆然とこちらを見つめる羽花の存在に気付いた。
「あ……」
女の子が少し驚いたような声を上げる。
すぐさまこちらに笑いかけてきた。
「公園に遊びに来たの? ごめんね、もう練習は終わったから」
「あ……あの!」
女の子に話しかけられ、羽花は興奮冷めやらぬ状態で女の子の傍へ駆け寄った。
「すごかった! 妖精さんみたいで!」
羽花は女の子へ詰め寄ると、彼女が乗っていた一輪車を指差す。
「それ、何ですか!? どうやったらあんなふうにできるの?」
女の子は最初、羽花の矢継ぎ早な質問に目を丸くしていた。
やがて笑い出すと、羽花の顔を覗き込んでくる。
「ねぇ、一輪車に乗ってみる?」
「いちりんしゃ……いいの!?」
羽花はパッと表情を輝かせた。
「もちろん! 練習すれば誰でも一輪車に乗ることができるよ」
女の子の言葉に、羽花は舞い上がった。
友だちが来るまで、女の子につきっきりで見てもらいながら一輪車に乗る練習をした。
ペダルをこぐと、徐々に熱を帯びる夏の風が後ろへと流れていく。
(気持ちいい……)
その爽快感に、羽花は夢中になった。
これが羽花の一輪車との出会いであった。
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