4章 膝まづいて、手を胸に…

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4章 膝まづいて、手を胸に…

店に戻って、さっそく接客研修。 タイガさんがすみっこの卓で 接客のシュミレーションしてくれる。 「そんなに難しくないでしょ? とりあえずやってみると分かるよ」 今日は私服でいいということで 黒スキニーに大きめの白シャツを着てきた。 ワイドパンツが流行ろうが ダメージデニムが流行ろうか ホストは何故か黒スキニー 足の線がわかるのがイイらしい。 そうそう、シャツは1番上までボタン留めた。 ピアスは息子のオサガリの中でも 一番派手そうなのをしてきた。 シルバーの十字架に 蛇が巻き付いてブラブラするの。 息子が中2の頃 V系ロックに憧れて買ってきたヤツ コレ、どうっすか? ってタイガさんに訊いてみたら クソダッセー!って爆笑された。 タロー 「じゃ、はずします!」 タイガ 「いいよ、ネタで付けといたら?」 ホスト達はチームというのに分かれてる。 売れっ子1人がリーダーになり 中堅が3、4人、新人2、3人の 7、8人で1チーム。 指名予約の卓でも、担当ホストが ベッタリ付いてるわけじゃない。 担当ホストが他の卓に行ってる間 残された女の子の相手をするのが ヘルプの役目。 そうやってチームワークで 同時に幾つもの卓を 回すしくみになってる。 「集客リーダー、盛り上げヘルプ」 というらしく 実はヘルプは重要な仕事なのだ。 その日、僕は タイガさんのチームにくっついて 2時間で4卓回らしてもらった。 爽やか系イケメンな上 明るく話しやすいタイガさんは お店では売上5位 副主任でチームリーダという肩書き。 5位と言ったってエルドラド本店は ホストが100人近く在籍してるから スターホストさんに違いない。 看板にも出る。 僕は教わった通り テーブルに着く時は腰を低くお辞儀をし 女の子の目をしっかり見て ご一緒していいですか?と声がけする。 それだけは忘れないように 念仏のように自分にいいきかせた。 一番初めのテーブルに向かう時 緊張しすぎて 僕は思わずつんのめった! あわやグラスごとスッ転び、お客様にお酒が! とっさに床に片膝と左手を突き、 どうやら持ち堪えた。 その、ひざまづいた態勢のまま 右手のグラスを溢さないように胸にピッタリ当て 女の子の目をしっかり見て 「新人のタローです、ご一緒してイイですか?」 と自己紹介すると、女の子は…爆笑した。 タイガさんも 「オマエ、どこの王子サマだよ!」 と突っ込んでくれた。
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