1章 初夏、 チーズケーキで釣られた

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「ちょっと話聞くだけでも! ね、お腹とか空いてない? チーズケーキ食べない?」 男が指差した先は ニューヨークチーズケーキが有名な老舗の純喫茶。 パンケーキを食べ損ねてた僕は ちょっとヒヨったけど すぐ正気に戻る。 (いかん! 何が悲しくてホストクラブの客引きと チーズケーキ食べんだよ?) 無言でそいつの肩をすり抜けて 道路を走って渡った。 お前の目はフシアナか? 僕のどこにホストクラブで遊ぶ金が 有りそうに見えるんだよ。 「ね、ほんと可愛い顔してるよね」 うっわ、また来た。見た目より素早いな! 「月100万、稼げるんだよ」 ん?100万? ってことは 500万は半年かからないの? 思わず立ち止まった。 僕の頭の中は この2ヶ月というもの 500万という文字が ネオンサインみたいに ペコンペコンと点滅してたのだ。 息子がこの4月から念願の美大に入学した。 入試の費用、入学金 1年目の学費はギリ用意できたけど…… 卒業までの学費ざっと500万! どう捻り出しても、無い。 無い、無い、無いものは無い。 奨学金を申し込めば 息子は卒業と共に 500万+利息の借金を背負うことになる。 そんなこと、ゼーッタイ させたく無いに決まってる。 なあんて、ぐるぐるぐるぐる考えて 気づいたら僕は スーツの男と向かい合って 濃厚なニューヨークチーズケーキに がっついていた。 その人はホストクラブの 〈キャッチ=客引き〉じゃなくて 〈スカウト〉だった。
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