27章 猛獣使い

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さて いよいよ、 冬人さんとみさきちゃんのために オールコールが始まる。 店内のホストたちは全員 タワーの周りに集まってきた。 ド派手なクラブミュージックに合わせて 照明も変わった。 ガラス張りの床に泳ぎ回る魚たちや 滝が落ちる壁に、虹色の光が いたるところに仕掛けられた鏡にも 光が乱反射する。 コールが始まると みさきちゃんはシャンパンタワーの後ろに 小柄な体をソファに沈め いつの間にか頼んだワインを 手酌でグイグイ飲み干してゆく! マジやばい飲みっぷり。 よく飲む子だけど これじゃ潰れるのは時間の問題。 とうとうボトルは半分に。 残ってたワインをボトルごと掴んで ラッパ飲みし始めた。 「おい、みさき シャンパンこれからだぞ」 冬人さんは小声で みさきちゃんにささやくが その声はホストたちの ボルテージMAXのコールにかき消された。 エンジェル・ヴィンテージが ポンっと軽快に開栓され 冬人さんがタワーに注いだのを皮切りに 次々と、冬人さんのオリシャンが 居並ぶホスト達に開栓された。 ポン、ポン、ポン、ポン! 開栓の音が1つづつ聴こえるように 時間差で抜かれる。 そして 七色に光るグラスの塔に イケメンたちがしなやかな指を揃えて シャンパンを注いでゆく。 ♪ウリャソリャウリャソリャウリャソリャ ステキなシャンパン キレイなヒメ様、イーヨイショ! ホストはみんな シャンパン飲まなきゃ 死んじゃう病気だ、イーヨイショ! ウリャソリャウリャソリャウリャソリャウリャソリャ♪ こうして書くと 何の意味だかさっぱりわかんないけど‥ オールコール✨ 何度見ても この瞬間が僕は好きだ。 シャンデリアの光が グラスの縁から 泡立ちながら流れ落ちてゆく。 辺りは体にまといつくような シャンパンの匂いでいっぱいになる。 狂ったように飲まされるシャンパン 大抵のホストは嫌いになるらしいが 僕はまだ、嫌いじゃない。 でも そのキラキラした光景を ヒメは見ている様子はない。 酔い潰れ、首をガックリ折りまげて ソファに沈み込んでいる。 「では、今日の主役 冬人リーダーから一言」 冬人さんにマイクが回された。 「今夜は… こんな素敵なタワー ヒメ、どーもありがとう! っと言っても、ヒメは潰れて寝てますが… 寝顔も可愛いぞ♡ コレからも隣にいてくれな、ィヨイッショ‼️」 タワーに隠れるように 気を失ってたヒメは 『王子の一言』が終わると なぜかシャッキリ寝覚め 突然すっくと立ち上がった。 その顔は… 人が変わったように目が据わっている。 「ヒメ!おメザかな? 冬人にメッセージを」 コールの音頭をとってるユーリさんが 底抜けに明るく結託なく マイクをヒメに向けた。 と、ヒメは ユーリさんから マイクを乱暴にむしり取った。 「眠い…」 ん? テンションの低い ドスの効いた声がフロアに響いた。 「…からあ、眠いんだよ」 その低い声は ヒメの声だった。 「おい、冬人ぉ このタワーのために あたしはぁ 今月も、来月も、再来月も 何百本もの○○○を○⚪︎◯るんだってな」 それは 恐ろしくドスの効いた声。 しかも放送禁止用語がバッチリ聞こえた。 「わ、わかった… 眠いのな…」 さすがに冬人さんが焦って マイクを取り上げようとしたが 覚醒したヒメサマは マイクを握りしめて離さない。 「眠いよぉ あたし、今日 出稼ぎから帰ったばっかりなんだから 眠いから、すぐ帰る」 「うん、一緒に帰ろうな💕」 「今すぐだよ! 帰って セッ〇スして 寝っぞ! おい!聞いてんのかよフユト!」 ヤカラ化したヒメの声は いつもの可憐な囁きとは打って変わって マイクを通して 猛々しく店内の隅々まで響いた。 冬人さんも コールの終わったホストたちも 被ったヒメも笑うタイミングを失い 固まったようにシンと黙った。 一瞬の空白の後… ユーリさんが 「いやあ!さすが! 今夜のヒメ突き抜けてるねー! イーヨイッショッ❗️」 と思い切りはじけて 凍った空気を一瞬で溶かした。 その後、冬人さんは何食わぬ顔で つぶれたみさきちゃんを回収し タクシーで家まで送って行った。 もちろん自分も泊まる。 なるほど…… 冬人さんは『猛獣使い』だった。
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