29章 バクダン

1/2
前へ
/91ページ
次へ

29章 バクダン

さて 今月、他店から移籍入店して タイガチームに入った新人 琥珀(コハク)。 身長は僕よりちょっと小柄。 僕が168センチだから 165くらい? 黒髪マッシュ、つぶらな瞳の小動物系美少年 と見えて、実は28才。 ホスト歴5年のまあベテラン。 頭の回転が速く意外と下ネタが多い。 自称「エロかわホスト」なんだって。 最近、ヒカリちゃんの卓に ヘルプでついてくれた。 ヒカリちゃんは好き嫌いがはっきりしてて ヘルプが気に入らないと ほとんど口を利かなかったりする。 琥珀とは盛り上がったみたいで 僕が戻ると 卓の温度がマックスになってた。 「タローさん! ヒメさま、今夜 『飾り』入れたいそうですよ!」 琥珀は 女の子みたいなふっくら頬っぺを上気させ 黒い瞳をクルクルさせて 明るく言った。 『飾り』とはその名の通り 派手なデザインの高級ボトルで テーブルに飾る目的で入れる。 中身はブランデーやリキュール。 シャンパンのように あっという間に無くならず 来店の度に何度も テーブルに飾ることができる。 でも、シャンパンと同じで 簡単に煽れる値段じゃない。 「え!ほんと? 『飾り』いいね~~~💗 どれにしよっか? 予算はどのくらい?」 僕は思わずウキウキと ヒカリちゃんに向き直った。 イベントでもないのに 『飾り』を入れてもらうなんて! 卓にはすでに 苺ミルク味のストロング酎ハイ缶が 空になって3本転がってる。 僕が離れてる間に2本追加したんだ。 空缶を片付けづけずに居たのは 状況を僕に知らせるためだろうし ヘルプについた初の卓で 『飾り』を決めるなんて もちろん『担当』の僕も立ててくれて う~ん! 琥珀、できるオトコ! 「琥珀さん、お願いします!」 ボーイに呼ばれて 「じゃ、ちょっと行ってきます!」 琥珀は頭をペコッと下げて席を立ち ボーイに缶を片付けさせた。 全てソツが無いなあ…サスガ ホストとしてのキャリアは僕より先輩 だけど役職のないホストは 入った順に先輩になるから 琥珀は僕に敬語だし 僕も琥珀を呼び捨てにしてる。 でも僕は教わることばっかりだ。 ヒカリちゃんは 強苺の空缶の間に肘をつき 頬杖の瞳を僕にトロンとあてて 「10万くらいの『飾り』ある?」 そしてすかさず 「今夜は泊ってね」 と、たたみかけた。 まただ~ 僕は、ウンザリした。 別にヒカリちゃんとエッチすることに ってわけじゃない。 ただこの、ヒカリちゃんの 強引で有無を言わさないやり方に。 ホストをしてると 男の目になって女の行動を見る羽目になる。 そして、僕は一応女だから 女がどうしてそんな行動をとるのか その心理も まあ、わかる。 ヒカリちゃんみたいに 「私を愛して!」を押し付けられると 普通の男は退(ひ)く。 男が退くと女は攻める。 酷過ぎると、男は疲れて去る。 しかし、 ホストは離れないんだよー 大抵のことは どこまでも付き合ってくれる。 なんでか? こうなってからが、金になるからだ。 そんな危篤な男は ホストしかいないから 女はますますそのホストに依存する。 (でもね キリのいいところで 自然に嫌われるように仕向けないと 最後刺されっぞ)←冬人さんの教え😱 ♦︎♦︎♦︎♦︎ タロー 「前から言ってたでしょ~ 今夜はアフターの先約あるんだよ? 酔っぱらって忘れちゃった?」 ごめんね、は敢えて言わなかった。 ホスト脳に成りきれない僕は 自分の気持ちをごまかして 重い空気を換えようとしてた。 が、僕の笑った顔が 引きつってたかもしれない。 ヒカリ 「知ってるよ‥‥ アイツのアフターでしょ? でも、わたし寝ないで タロー待ってるもん」涙目 僕は黙る。 全て 言いなりになっては いけないのだ。 お互いのために。 ホストは夢を売るのが仕事。 でも、夢は 現実(うつつ)ではない。
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加