分かれ道

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 お腹が熱い。痛い。苦しい。  当たり前だ。  お腹には包丁が刺さっている。  博之が浮気をしているのは知っていた。でも、まさか、その相手が逆上して刃物を振り回すような女だったなんて。 「死ね、死ね」  そう叫ぶ女の顔にはマスカラが溶けて黒い筋が流れている。こんな女のせいで私の人生は終わるのか。  意識が遠くなる。  嫌だ、嫌だ。博之の最初の浮気で別れていれば、こんな目に合わなかった。  なぜ、許すという選択肢を選んでしまったんだろう。もう一度、やり直せたら。  ピコン。  間の抜けた音で目の前にダイアログが現れた。 「人生をやり直しますか? はい いいえ」  訳もわからないまま、私は叫んだ! 「はい!」  チャラン。  明るい音と共に痛みが消える。  目の前には土下座をしている博之。 「悪かった。ほんの出来心だったんだ。飲み過ぎたのが悪かった。もう、浮気なんかしないから、許してくれ」  これは最初の浮気がわかった時、結婚前の恋人時代のことだ。これを許して、そして、ずっと、博之の浮気に悩まされたのだった。  過去に戻った? 助かった?  私は大きく息を吐いた。 「どうせ、これからも浮気するんだから。別れましょ」  こうして、私の第二の人生は始まった。
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