アキばあの話

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アキばあの話

 あんたらけ。わざわざ東京から来たっちゅうんは。こんな田舎にようこそようこそ。暑かったやろ。ちょっこ前にも東京から、あんたらみたいな若いモンが来て、話もよお聞かんとあの道に入ったもんやさかい、大騒ぎして逃げるように帰っていったわいね。  あの道が通らずの道になったんは、今から二十年くらい前かねえ。白骨死体が出てきたが。ひどい雨が続いて土がぬかるんでね、そこを犬の散歩しとった村人が通って、いんころが吠えて土を掘り返したがいちゃ。人間にはわからん、なにかを感じとったがやろうね。  警察がぎょうさん来て、そらもう大騒ぎやちゃ。そんなこと、この村では初めてのことやったからね。結局、白骨死体の身元はわからんままやったけど、たぶん、違う県の人間が自殺でもしようとしてあの山に入ったか、遭難でもしたかやろいうて、それでその事件は終わったがいよ。  もともとは散歩したり、山菜採りに行ったりするような山で、これといってなにかが奉られとるわけでもない、普通の山道やったがいけど、そんなことがあってからあの道は不気味やいうて、だんだんとだあれも通らんようになってしもた。
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