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「じゃあな。て言ってもまたすぐに会うことになりそうだが。」
「そうならないことを祈ってるよ」
互いに笑い、背を向けてそれぞれの行く先へ向かった。
「君の受贈者はどんな子かな。」
初めて受贈者に会いに行くときは決まって憂鬱だった。
どんな子なのかわからない、性別も年齢すらも分からない。
分かっているのはどこにいるかだけ。力に引き寄せられるように出会うため、何の予測もあてにならなかった。
だからいつも初めて出会うために受贈者の元へ向かう時間が嫌で、逃げ出したいと思っていた。夏海の時もそうだった。
だけど今は、少しでも早くその子に会いたい。
「いた・・・」
その少年はバス停のベンチに座って本を読んでいた。怪しまれないように近づいてみると、肌は白く体が華奢なことは学ランを着ていてもわかった。文章を追っている目はとても冷めていて、霊的能力は一切信じないような目だった。しかし、確実に彼の体から気を感じた。
強くはない力。それでも時間とともに強くなると確信するような気を纏っている。
つまり、間違いなく彼こそが受贈者だった。
「やぁ、はじめまして」
夏海、君の受贈者はどんな子だろう。
「私は拓哉といいます。」
君がいつも呼んでくれたこの名で新しい人生をこの少年と歩もう。
「君は?」
君と出会ったあの日のようにとても晴れていて、私の背中を押してくれているようだった。
内ポケットにしまった手紙も仲良く並んだ指輪も、私の過去として忘れてゆくのではない。それと共に、一緒に旅をしていくのだ。
怪訝そうな顔をした少年は戸惑いつつも名乗った。
「君を迎えに来ました。」
一つの思い出を胸にしまい、この指輪と共にまた一歩歩み始めた。
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