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2.彼との出会い
私、白石夏海には中学1年の冬、突然ある特殊な能力が身についた。
それは、触れたものの未来が見えるということだった。
その対象は人間に限らない。あんなに元気だった学校の先生も、放課後によく行った雑貨屋さんも、友達と何度も通ったゲームセンターも。放課後はたくさんの学生でいっぱいだったショッピングモールが今の光景からは想像がつかないほど寂れて建物を一つも残すことなくただの更地となった静止画が私の脳にはっきりと焼き付いた。
その後、時を待たずにしてその地一帯の大規模な開発が決定し、開発業者がショッピングモールの取り壊しを始まった。全ての取り壊しが終わり、あの時に脳に焼き付いたあの映像とまったく一致していたことに気が付いた。そしてその後すぐに、先生も飲酒運転をした男性が起こした事故に巻き込まれて亡くなった。
その時、私のこの能力に気が付いた。
それからというもの、私が触れるものすべてにそのものの未来が頭の中に鮮明に焼き付いた。
自称拓哉と出会ったのはそんな能力が身に付き、静止画だったものが少しずつ断片的な映像として脳に焼き付くようになってからだった。
「やぁ、迎えに来たよ。プリンセス」
彼は人もまばらな放課後の公園でブランコに乗りながら一人で紙パックのジュースをぼーっと飲んでいた私の目の前に、歯の浮くようなセリフと共に颯爽と現れた。
寂れたこの公園には似つかわしくない立派なスーツ姿の男性は私の目を真っすぐ見てそう言った。
初めて見た彼は私を見る目がとても嬉しそうで、ふざけている様子は全くなかった。むしろ平然とそう言い放ち、恐怖感すら覚えた。
モデルのようなすらっとした高い身長に、端正な顔立ちの彼は先日テレビで見た今女子高生に人気の俳優に少し似ているように感じた。
芸能人だと言われても信じてしまうような整った顔立ちの彼に騙されそうになったが、真っ当な人間ならば働いているであろう今の時間に、女子高生に『プリンセス』などと言い放つ大人がまともなわけがない。
夏海は聞こえないふりをして彼に背を向け、公園を出ようとした。
「あれ、どこに行くの?プリンセス!」
白昼堂々とプリンセスと叫ぶ男に、そして呼ばれる女に人のまばらな公園のすべての視線が集まった。
夏海は好奇の視線に晒され、顔が熱くなるのを感じたが大きな声で叫んだ張本人はまったく気にしていない様子で私のことを追いかけてきた。
夏海はその視線に耐え切れず、彼の腕をつかみ公園から連れ出した。
「どういうつもりですか?ていうか誰ですか?」
「君を迎えに来たんだよ。さぁ一緒に行こう!」
当たり前のように私の腕を掴んで歩き出そうとする彼の手を勢いよく振り払った。するととても驚いた表情で私を見た。
「まぁそうなるよね。過去の受贈者もそうだったよ。むしろ黙って付いていかないあたり、良く育っていると言うべきかな。まぁ、私は怪しい者ではないから付いてきてもらわないと困るんだけどね。さぁ、行こうか」
受贈者・・・?
不審者は勝手に納得して話を進めようとしていた。
「ちょっと、行くってどこに行くんですか?」
「僕たちの家に帰るんだよ。」
「私にはちゃんと家があります。そもそも私はあなたのことを知らないし、初対面でプリンセスとかいう人のことを私は信用できません。」
「酷いなぁ」
言葉では傷ついたようなことを言いながら顔はにこにこしていて、私の言うことなど露ほども気にしていないような様子が益々私を苛立たせた。
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