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「とにかく、私は自分の家に帰ります。これ以上私に近づくようなら警察に通報します。分かったら金輪際私に近づかないでください」
捨て台詞を吐き、彼に背を向けて家に帰ろうとすると、
「白石夏海。1997年8月29日生まれ。乙女座。血液型O型。両親はすでに離婚していて、母親に引き取られた。が、その母親も数年前に病気で他界。父親は母親に引き取られてからは会っていないし、連絡先すら知らない。幼いころに離婚してるから父親の顔すらあまり覚えていない。父方の祖父母とは会ったことすらない。だからかな、父親を含めた父方の家族にはあまり思い入れがない。
それに対して母方の祖父母には可愛がられて仲も良かったが、母親が亡くなった後すぐに二人とも他界している。その時に住んでいた家はもう処分していて今は狭いアパートに一人暮らし。」
つらつらと流れるように彼が話したのはまさに私のことだった。
「成績は優秀で常に学年トップの成績を修めている。運動神経もそれなりによい。教師からの信頼も厚く、1年生で生徒会にも所属している。美人だからモテるが特定の恋人はいない。これだけ見ると欠点という欠点が見当たらないね。」
ずっと見ていたかのように語る彼は不気味だった。ここ最近、誰かに追いかけられている様子は全くなかった。それとも私が気が付かなかっただけだったのか。
私が一人で考え込んでいると、また口を開いた。
「そして最近の悩みは、」
彼は私に一歩近づき口を私の耳元に寄せて小さな声で言った。
「未来が見えてしまうこと」
私は思わず小さな悲鳴を上げた。
何でそれを知ってるの。誰にも話したことないのに。
「もう少し詳しく話した方がいいかな?
君の能力は君の意志で、君が触れたもの未来しか見えない。つまり、」
彼は私の指先に少し触れて、背筋が凍るほど完璧な笑顔で笑った。
「こうやって私が夏海に触れた時には未来が見えない。逆に言えばどんなに小さなものでも、例えばテントウムシだとしても未来を見ようと思えば見えてしまう。」
私の驚いた顔を見て彼は満足そうに笑っていた。
「これで少しは信用してくれたかな?君の性格上、この能力をむやみに人に話すようなことはしないでしょう。自分が逆の立場ならそんな能力を持っていると言われたとしても信用しないから。それを僕が知っていた。
君にとって僕は無下にできない存在だという証拠になったかな?」
先ほどまで爽やかに見えていた彼の笑顔が一気に悪魔のように見えた。
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