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「ここが君の家だよ」
「・・・お邪魔します」
彼が連れてきてくれた家は、洋館のような立派な家で立派なスーツを着た彼にぴったりな家だったが、入り組んだ田舎の住宅街では少し浮いていた。
恐る恐る中へ足を進めると、外観を裏切らないほど豪華な内装で夏海が住んでいるアパートとは比べることすら申し訳ないと思うほどだった。
「好きなところに座って。あ、紅茶でいいかな?」
すぐ帰るので、と私が言うと、そんな冷たいこと言わないで、と笑った。
彼の目的は何だろうか。どうして私をこの家に連れてきたのだろう。そもそもどうして私のことを知ってるの?
「そんな難しい顔しなくても君みたいな女の子を取って食べたりしないから安心して」
気が付くと紅茶の入ったカップと見るからに高そうなおしゃれなお菓子を持った彼が近くにいた。
「どうぞ。フランスのお菓子でね、とても美味しいんだ。でも男一人だと甘いものってなかなか食べないし減らなくてね。嫌いじゃなかったら食べて」
好きですけど。
お菓子は大好きだけど、今は食べてる場合じゃない。
「どうして私のことを知ってるんですか?あと、」
「君自身のこと?それとも能力のこと?どっちにしてもせっかちだな。とりあえずお茶にしてからにしない?」
わかりやすくイライラしている私のことが見えていないかのように彼はマイペースに自分の紅茶をテーカップに注いだ。
断固としてカップに手を伸ばそうとしない私を見て彼はため息をついた。
「若いのに本当にせっかちだね。いや、若いからかな」
彼は紅茶に角砂糖を三つぼちゃぼちゃと入れて、スプーンでくるくるとかき混ぜ一口飲んだ。
甘いもの食べないって絶対嘘じゃん。
「君の未来が見える能力はね、先代から受け継いだものだ。」
「先代?私のお母さんってことですか?」
「ちょっと違うんだよねぇ」
彼はうーんと困ったように笑った。
「君の言う先代、つまり両親は血縁的な先代でしょう?僕の言う先代は血縁的なものじゃなくて、精神的な前世って言えばわかりやすいかな」
「精神的な前世?」
「信じてない顔だね」
私の表情が分かりやすく歪んだのを彼は決して見逃さなかった。
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