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「まぁ、前世って言っても君の能力は受け継がれたものだって言ったでしょう。君の能力が身についたのは何歳の時?」
「中学一年生の時です」
「2010年辺りかな。今から4年前だ。
ちょうどそのあたりに君の先代が病気で能力がどんどん衰え始めた時期でね、亡くなったのはつい最近。だから走力が身に付き始めて不安な君を4年も迎えに来ることが出来なかった。申し訳なかったね。」
「その方が亡くなる少し前から私に能力が少しずつ受け継がれ始めたってことですか?」
「そうそう。この力は一度に全て受贈者に受け継がれてしまうと脳が破壊される。脳は私たちが思う以上に繊細だからね、一気に力を移動させるとまずいんだよ。コンピューターでいうとショートしてしまって、最悪植物人間のような状態になるんだ。それほど大きな力だからね」
今思い返してみれば、確かにその兆候はあった。
今ほど鮮明には見えなかったがぼんやりと一瞬だけ見えるようになったのが中学に上がってすぐの時。最初はそんなに深く考えていなかったが、より鮮明に見えるようになるまで4年かかった。
「ましてや君が受贈者だと決まった時まだ小学生だった。この力は時に、ショッキングなものも見えてしまうからね。体も心も未完成なままで能力を完全に移行させるのはリスクが大きすぎた。先代の意向で君に全ての力を受け継ぐために亡くなるまでの時間を最大限使おうっていう話になってね。」
「この能力が私の脳に馴染むまで4年かかったってことですか」
「そう。さすが、頭が良いから呑み込みが早くて助かるよ」
拓哉はまた角砂糖を二つ入れてスプーンでかき混ぜ、今にも糖尿病になりそうな紅茶を美味しそうに飲んだ。
まだあまり信じられないが何となく私がこの能力を持ってしまった理由は分かった。
それより一番の疑問は、
「あなたは誰ですか?」
直球の質問に彼は少し黙った後、噴き出して笑った。
「君は面白いね。力についてはもういいの?聞きたいことは色々あるんじゃない?」
「私の質問に答えてください」
「うーん。名前は、そうだな。」
彼はわざとらしく考え込むように顎に手を当てた。
「拓哉にしとこうか。君も知ってるだろ、木村拓哉。あの国民的大スターだ。
彼はどうも前世では僕の兄弟だった気がしてならないんだ。だからきっとあんなに男前なんだよ。どの世代の女性も木村拓哉に夢中だ。女性だけじゃない、男性だって彼に魅了されてる。あれだけのスターはなかなか生まれないよ。それでもほら、私だって彼に負けないくらい男前だろ?」
「真面目に答えてください」
絵に描いたようなどや顔を見た私が分かりやすく苛立ったことにようやく気が付いたらしく彼は足を組みなおして、また先ほどの嫌に甘い紅茶の入ったティーカップをテーブルに置いた。
「君の知りたいことって何?」
「え?」
「私の名前、私の年齢、そんなこと知ったところで君の力の助けになるとは思えない。ましてや君が困っていることの解決になるとも思えない。私の情報なんて君が知ったところで無意味だろう。
そんな無意味ことを聞くなら、どうして僕が君をここに連れてきたのか、なぜその能力について知っているのか、そして君の能力を使って何をしてほしいのか、それを聞くほうが余程君にとって有益だと思うんだけど、どうかな?」
先ほどまでの温和な雰囲気とは違う。
凍り付くような声。貼り付けたような笑顔。私を試すような視線。
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