11.天に召されあなたと共に

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「終わったのか」 「・・・あぁ」  夏海が亡くなってから四十九日が過ぎ、夏海の遺骨は夏海の祖父母や母の眠る白石家の墓に埋葬した。 「白石家に埋葬したんだな。白石は生前、お前とのお墓を作ると言っていたこともあったような気がしたが」 「俺は死なないからな。一人ぼっちじゃ夏海が可哀想だ。」  夏海は自分が思うよりずっと寂しがりだった。 いつ来るのか分からない遺骨を待つより、家族といた方が幸せだろう。 「そうか。」  武史はそれ以上何も言わず、ただソファーに座っているだけだった。 「夏海は、」  静まったリビングに私の声が響いた。武史は何も言わず、ただじっとこちらを見ている。 「夏海は幸せだったと思うか?」  結局夏海は死ぬまで独身を貫いた。そうしたいのだと夏海ははっきりと言い、それ以上私に何も言わせなかった。  年齢を重ねていく夏海と時が止まったままの私。  一緒に人生を歩むことすらできない私と一緒にいて夏海は幸せだったのか。 「白石ほどお前と長い時間、真剣に向き合った受贈者はこれまでにいなかった」  武史はいつも通り淡々と話した。 「福島則夫のこと、お前が触れられたくないと薄々分かっていながら白石はお前にきちんと自分の過去と向き合わせた。それが最善だと分かっていたから自分が嫌われてもお前に前に進んでほしかったんだろうな。お前の代わりに後継者になるとまで言った。大した奴だったな」 「夏海は、」 「その指輪」  武史は私の言葉を遮り、私の左手の薬指にはめている指輪を差した。 「それは白石が買ってきたんだろう。」  夏海の30歳の誕生日。「そんなに高価なものじゃないけど」と照れ臭そうに笑って、結婚式の真似をするようにお互いの指にはめた。  それから約半世紀。私たちは一度もそれを外さなかった。 「その指輪を片時も離さなかったことが答えだろう。少なくとも俺の知ってる白石はお前がいれば大抵幸せそうに笑っていた。」  知ってるよ。お前に言われなくても。  年齢を重ねて、今の指のサイズと合わなくなってきても頑として薬指にはめることをやめなかった。  最後まで私と一緒にいることを考えてくれていた。私の目に映る夏海はいつの時も幸せそうで世界で一番綺麗だった。 「次の受贈者はもうわかっているんだろう。」 「あぁ。」  夏海が亡くなる数年前からどことなく感じていた、受贈者の気配は夏海の気が残るこの地とは離れた場所だった。 「不思議なもんだな。この場所は夏海との思い出がたくさん残ってて寂しくないからずっとここにいたいと思ってるんだ。だけどきっと夏海なら早く次の人のところへ行ってあげてって言うんだろうなと思ったら一刻も早くその人に会わないといけないような気がしてる。」  武史は珍しく吹き出して笑った。 「白石ならきっとそう言うな。あいつが最後に会ったときに俺に言ったこと、教えてやろうか?」 「何だよ」 「拓哉を一人にしないでね」  夏海の声が聞こえたような気がした。聞いたこともないのに、夏海がそう言うことは容易に想像がつく。
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