雨よ降れ

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雨よ降れ

雨よ降れ。 雨が降ればわたしは、傘を忘れたという彼に傘を貸すことが出来る。 「夏希ちゃん」 優しく呼ぶ、聞き馴染みのある声。 「陽人くん」 振り向くと、わたしの好きな人である西岡陽人くんが立っていた。 「『君は恋する小悪魔』最新巻読んだ?」 「もちろん読んだよ!颯太が美琴に謝ってから、キスするシーンが本当に最高だった!」 「だよね!あのシーン僕もキュンとしちゃった!」 『君は恋する小悪魔』は少女漫画で 映画化されたこともある人気作品だ。 わたしもファンの一人でこの作品がきっかけで 陽人くんと仲良くなったのだ。 そして、優しい彼に惹かれていった。 「夏希ちゃん?どうしたの?僕の顔じーっと見て」 「あ、ううん!!なんでもないの!」 わたしは慌てて目を逸らした。 ポツ、ポツ、ポツ……。 窓の外を見ると雨が降っていた。 やった! わたしは密かにガッツポーズする。 「うわー!降り出した!傘ないのに」 陽人くんが窓の外を見て困ったような顔をする。 ごめん、陽人くん。 陽人くんは困ってるのに喜んじゃいました。 「あの、良かったらわたしの傘に入る?」 「えっ、マジ? いいの?」 陽人くんはホッとした顔になった。 「うん、わたしの傘大きいし二人入れるよ」 にっこり笑う。 「わー!マジでありがとう!助かった!」 「友達だもん。このくらい当然のことだよ」 「優しすぎー!」 わたしは、アハハと笑う。 それから、わたしたちは雑談をしながら 玄関に向かって歩き出した。
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