鏡のなかの

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~~~~  それから、私の周りでは似たようなことが度々起こるようになった。  親子遠足に持って行くために買った水筒。ピンクの小さな花柄と青いシャボン玉のようなドット柄。母と一緒に買いに行った量販店で、迷いに迷ってピンク色の水筒を選んだ。  ――――はずなのに、当日動物園の看板の前で撮った写真では、紺色のリュックサックを背負った私が、青い水筒を肩から下げて、口をキュッと結んだ顔で映っていた。これは腑に落ちないという表情だったのだろう。  小学校に上がる前に祖父母と選んだランドセル。予めカタログを見て、これにすると目星をつけて、デパートへ買いに行った。当時の女児達に人気だった変身ヒロインの衣装を想起させる華やかなローズピンクのランドセル。側面や肩ベルトには白い糸でレースの模様が刺繍されていて、ドレスをイメージしているようなデザインだった。この時は他の色やデザインには目もくれず、迷いなくそれを選んだ。  ――――はずなのに、実際に背負って学校へ通ったのは、ダークブラウンのランドセルだった。余計な飾りや刺繍もないシックなデザインで、周りからは「格好良いね」と褒められた。高学年にもなると少し大人びた子ども達が特にそれを羨ましがっていたし、悪い気はしなかったが、謎だけは残った。  その後は、帽子、コート、ペンケース、布団カバー、カーテン……何かを新しく手に入れたり買い替えたりする度に、選んだ色がいつの間にか変わってしまう現象に見舞われた。私の周りには、服も小物も玩具も、選んだものと違う色のものばかりが集まった。  それはやがて、物だけに(とど)まらず。  仲のいい友達と一緒に地域の中学校に通いたかったが、私立の女子中学校に進学し。  運動が得意だったのでバスケ部に入りたかったが、英語部に所属し。  高校も大学も外部の学校を受験する予定だったが、そのまま内部進学し。  社会人になったら実家を離れて一人暮らしをするつもりが、結局親の紹介のもと、地元で就職をしていた。  私の歩む道が、悉く本意ではない方へ伸びていたのだ。
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