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母はピンク色が嫌いだった。
といっても、嫌いなのは色自体だったのか、それを選ぶ私の存在だったのか。
可愛らしいもの、華やかなもの、キラキラしたものも嫌悪していて、私がそういったものに興味を持つ度に「悪趣味」「気持ち悪い」と否定していた。怒鳴られたり叩かれたりしたこともあったし、持ち物を壊されたり捨てられたりしたこともあった。
成人して暫く経ってから気づいたことだが、母は私が“大人”に、そして“女”になる道をあの手この手で立ち塞いだ。裏を返せば、自分に自信がなかった人なのだと思う。娘がやがて大人の女性に成長し、対等に向き合う日が来るのが怖かったのだろう。
母側の事情の真相はさておき。
そんな“刷り込み”のもとで育った子どもの私は、ピンク色は選んではいけない色だし、可愛いものや綺麗なもの――つまり“女の子らしい”ものは、手に取ったり身につけたりしてはいけないものだと、自ずと察するようになった。
けれども、私の本心はそれを受け入れていなかった。ピンク色は勿論、フリルやレースの飾りにはとても惹かれていたし、同年代の女の子達に愛されていたヒロインやプリンセスにも憧れていた。本当は愛らしいキラキラしたものを持ちたかったし、身につけたかった。
何かを買う時、迷いに迷っても母に罰せられると分かっていたから、最終的にはそれらとは遠い色やイメージのものを選んでいた。
でも、本当はそれとは違う方が欲しいという強い気持ちに幼い心が耐えられず、決定する瞬間の記憶を消し、一時的に自分の頭のなかで都合の良い“話”を作っていたのだろう。
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