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エリオはハッとした。美桜は続ける。
「ちゃんと日本に戻してくださるんですよね?」
「ああ、もちろんだ。
ときが来たら元いた世界におまえを返そう」
エリオは真摯な表情で美桜に約束する。
美桜は彼の言葉に安堵した。
「ありがとうございます。
それならわたしもエリオさんのためにがんばります」
美桜の意気込みに感じ入ったエリオは、笑顔を向ける。
「おまえの勇気に感謝する。共に力を合わせよう」
エリオはふたたび馬を駆り始めた。
頬に風を受けながら、美桜はひそかに暗い表情になる。
(わたしにそんな力があるなんて、思えない。
きっとエリオさんの勘違いだ)
本来なら、いますぐに日本に返してもらうべきだろう。
もしこれが夢ならば、すぐにでも覚めてしまったほうがいい。
けれど美桜は、どうしてもそう思えなかった。
(だって、日本にいま戻ったところで……)
美桜は心のなかでつぶやく。
ここに来る前の悩みが思い出された。
両親からの大きなプレッシャーと、大学受験の大失敗。
友人たちには悩みを打ち明けられず、いつも笑顔でいなければならない……。
それは美桜に重くのしかかり、その現実に直面することに怯えていた。
(この世界が夢でもいい。
もう少しだけでも、家とは違う場所にいたい)
美桜はそんな思いを胸に秘めて、アーデリアでの滞在を受け入れることに決めた。
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