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体験レッスンの日が来た。昔のスポーツウェアはきつくて入らなかったので、オンラインショップで新しいヨガパンツとTシャツを用意した。
水瀬の教室は、徒歩五分ほどのところにあるガラス張りの洒落たビルで、教室の入り口もガラス張りだった。教室の一壁面もガラス張りで明るかった。
「こんにちは。体験レッスンの北見萌です」
「北見さんですね。お待ちしていました。インストラクターの水瀬竜也です」
黒いレギンス、黒いハーフパンツ、黒のシャツをスッキリ着こなした水瀬は、三十代半ばだろうか。切れ長の目をして、筋の通った形のいい鼻をした美男子だった。
萌は美男子の水瀬をまっすぐにみられなかった。ひどく太ってしまった自分やだらしない昼夜逆転の生活を思ったからだ。
水瀬は健康上のチェック事項を尋ね終えると、最後に萌にこう尋ねた。
「北見さんは、事前のアンケートで、『ストレスで仕事を辞めた』と書いてくださいましたね」
「は、はい……」
素直に書きすぎてしまっただろうか、と思ったが、水瀬は安心させるように微笑んだ。
「ヨガは心の平和を目指すものです。北見さんが、ヨガで穏やかな気持ちになってくれたら嬉しいです」
萌は、この人のところなら、安心して運動ができる、と思ったのだった。
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