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c9c13e55-6af5-4b64-b78c-7bc77f7ba1ff 眠れないまま夜明けが来た。窓の外が少しずつ明るくなる。北見萌(きたみもえ)は窓を開けて、空を見上げた。真っ暗だった空が、淡いすみれ色を帯びて、東の空が茜色に染まっている。  萌は大学の英文科を卒業したが、新卒で入った会社で上手くいかなかった。自宅に引きこもるようになって○か月経つ。夜明けの風は萌には冷たく感じられた。目をつむると、いくつもの後悔が押し寄せてくる。  萌は、会社でのことを思い出し始めた。 英文科を出ているとは言え、海外からかかってくる英語の電話対応はむずかしく、上手くできなかった。様々な英語の訛りで早口に話されることに慣れていないし、相手の表情やジェスチャーが見えないことが不安だった。それに何より、自分の話した内容が相手にしっかり伝わっているかが不安だった。得意なはずの英語が、段々と怖くなっていった。  そうなると、会社にいても辛いばかりだ。返事も挨拶も笑顔ですることができなくなり、上司にも同僚にも避けられるようになって孤立していった。 一生懸命にやればやるほど緊張し、また、うまくいかなくなる。 責任感の強い萌は自分を責めるようになってしまい、就職して数ヶ月で、心療内科に通うようになった。 ―就職してまだ数ヶ月。なんて私は弱いんだろう……― ―同期はみんな、しっかり働いているのにー 情けない思いでいっぱいだったが、会社に行こうと思うと吐き気がした。上司のことを考えただけで頭が痛くなり、電話が鳴れば震えが止まらなくなった。そうして、ドクターストップがかかり、休職することになったのだった。
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