思い出のオルゴール

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 中に入ると、広い床と天井から吊るされているシャンデリアが目に入った。  その次に左右にある二階へと伸びる階段。  外からの見た目と中の見た目の差が大きかった。  中はホコリなんて積もっている場所はなく、人が住んでいそうな所だった。  おばあさんの言った通り、玄関のすぐ右に扉があった。  ドアを開けると、おばあさんが椅子に腰掛けている。  部屋は先程のオルゴールの音で満たされていた。 「この曲、知ってるかしら。『ジュ・トゥ・ヴ』っていうの」  あたしは記憶の欠片を探す。それはすぐに出てきた。 「はい。フランスのエリック・サティ作曲のですよね」 「ええ。私が好きな曲だって言ったら、旦那がプロポーズの時にくれてねえ。手作りのオルゴールなのよ」  おばあさんは愛おしそうに木箱を撫でる。  ジュ・トゥ・ヴは元は歌曲集のうちの1曲とされているが現在ではピアノ独奏でよく知られている。  ジュ・トゥ・ヴはフランス語で、日本語訳では『あなたが欲しい』などの訳がある。  旦那さんはそれを知っていたのだろうか。  本人のみ知るところである。 「でもねえ。素敵なんだけど……。もう少ししたら……」  おばあさんの言う通り、しばらくすると、オルゴールの音が一つ外れた。  有名なメロディのあとの、一音。 「あ……」 「そう。今のところ。音を間違えたらしくて私にくれてから気がついたのよ、あの人」  おばあさんはとても幸せそうに笑った。
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