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十話
翌朝目覚めると、知らない天井が見え、ベッドの上にいた。
ここはどこだっただろうか、そう考える前にお尻の違和感で思い出させられた。
手首を見ると、両手首を縛られた跡が何十にもなり残っている。
ブルっ。
身震いし、昨晩起きたことが夢じゃなく現実だったと、あんなもの神ではなく化け物だと月希は思った。
化け物に身体を好き勝手され、お漏らしまでさせられた。
気持ちが悪くて気分も悪くて、枕元に置いてある桶に吐ければ少しは気持ちが楽になるのかもしれないと思って顔を桶に向けて下を向いてみたものの吐けない。
毎週試練がある…。毎週あんな事が起きるなんて…。嫌だ、逃げたい、逃げよう。明日学校から真っ直ぐ家に帰ろう。家族がいるはずの実家へ。
「月希様、お務めご苦労さまでした」
お手伝いさんが朝食を運んできてくれたようだ。
試練の次の日は部屋から出なくて良いらしい。身体を労って下さいと言われた。
みんな何が起きたか知ってるんだ。
ぼくがどんな目に合ったか知ってて、ご苦労さまでしたと声をかけ、ゆっくりしてくださいなんて言ってるんだ。
羞恥心と憎悪に包まれ、大人しくしておいて、学校の帰りに真っ直ぐ家に帰ってしまおうという気持ちしかなくなった。
明日。明日になったら帰る。
お母さんに、どんな目にあったか言えばどうにかなるかもしれない。
週の初め、月曜日。月希は下校後真っ直ぐ家に帰った。
二人の弟妹は庭で遊んでいて、月希を見るなり喜んで、両側から手を握ってくれた。安心する我が家。これが家だよなと月希は思った。
「ただいま」
「月希!!」
お母さんは複雑な表情をしてるけれど、息子が帰ってきたんだから嬉しくないわけないよね。
「お母さん、あのね……」
ガラガラガラガラ。
お母さんと話そうとしたのに、無遠慮に玄関を開ける音が響いた。立っていたのは数人の大人たち。この着物知ってる。本家のお手伝いさんたちが着てたのと同じじやつだ…。
「お母さん!やだ!助けて!戻りたくない!ぼく酷い目にあったんだよ!あんなの神様じゃなくて化け物だよ!」
「月希…………ごめんなさい、分かって。私たちは本家に見捨てられては生きていけないの」
「いやだ!触るな!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!あそこへはもう行きたくないんだ!嫌だよ!お母さん!」
「ごめんなさいね月希……」
滝のような涙を流しながらもぼくの手をとってくれず、弟妹を抱きしめてるお母さんを見たら、抵抗をやめて大人しくするしか出来なかった。
お母さんは、ぼくだけじゃなく、他にもいる自分の子供を二人守らなきゃならないんだ…。
その為にはぼくが本家に行って、ちゃんと、犠牲になって…犠牲になってればみんなが幸せになれる?
「分かったよ、お母さん……離してください、自分で帰ります」
外に出ると黒塗の車が停まっていた。これが本家の車だろう。自分から後部座席に座る。弟妹がなにか叫んでるのが聞こえる。
もう聞かない。両耳を手のひらで塞ぐ。
もうここには帰ってこない。
登下校は見張りがついた。もう実家には戻れない。そう分かってるし逃げるつもりもなくなったのに、登下校くらい何も気にせず友達と楽しく喋りたいのに、数メートル後ろから見張ってる人たちの存在が分かってるからうんざりする。
次の金曜の夜が憂鬱だ。
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