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六話
泉の建屋に案内されて、地下から泉に行った。ここの泉は不思議な事に、どの季節に入っても適温らしい。
地下から外に続いている階段を上がり、出口を開けると、そこは自然に囲まれた泉があった。
言われた通りに服を脱ぎ、ゆっくりと水に浸かる。本当だ、冷たくもなく温泉ほどの熱さもない。ここに浸かれば身体を清めることになるらしい。自然の中で、一人で泉に入ってるなんて、なんだか急に大人になった気がした。昨日までの日常とは違った空間。
水で顔を洗って、上を見上げると光が2つ、ぼくの上空にあることに気づいた。
(初めまして。君、新しく来た視える子?)
(おーい、初めまして。聞こえてる?)
(みぃ、聞こえないみたいだよ)
(いず、僕らの声聞こえないみたいだね。じゃぁもしかしてこの子は…)
(何年振りだろう)
(可哀想に)
(ほぼ生贄のようなものだよね、可哀想に。身体はこの泉で癒やされても、精神は持つかな……)
(可哀想に………)
(可哀想に…)
光は、ぼくの上空をクルクル回っていたかと思うと、木々の方へ行ってしまった。なんだろう。不思議な場所。
泉に入り、夕飯を食べ満足したぼくは、ここの生活も案外悪くないかも、なんて単純な事を考えていた。そういえばぼくの部屋はどこだろう。
夕飯を食べた大広間?みたいな場所で、どこに行けばいいのか迷っていたら、お手伝いさんに声をかけられた。部屋に案内してくれるみたい。
「月希様は今宵から週に一度、御稲様を身体に降ろす為の試練がございます。金曜の夜、試練は行われます。泉にて禊をして頂いたので、こちらのお召し物に着替え、目隠しをして離れに参ります。神様を直接目にしては失礼に当たるので目は隠しますが、離れまでの誘導は両側から手を引きますので、ご心配なく」
着替えてきてくださいと浴衣?を渡され部屋に案内された。本家には部屋が沢山ある。とりあえず紐を結べばどうにかなるだろう。
「月希様、出来ましたか?」
「多分…これで大丈夫だと思います」
部屋を出たらお手伝いさんが二人待っていてくれた。
玄関を出て離れに向かう。履いてきた靴じゃなく草履を履かされる。
本家を出て砂利道を歩き、離れに近づいたところで白いハチマキのようなもので目隠しをされ、両手を引かれて歩いた。
神様を降ろす為の試練。正直何をするんだか想像もつかなくて怖くなってきてる。お手伝いさん達は手を引いてくれてるから、ぼくの手汗に気づいてると思う。けど何も言ってくれない。
ここのお手伝いさん達はロボットみたいだなと思った。同じ服を着たロボットが沢山いるみたいだ。
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