七話

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七話

「御稲様も降りる人間を選ぶそうです。誰でも良いというわけではありません。お告げのあった月希様なら大丈夫だと思います。名誉な事ですよ。くれぐれも粗相のないように、目隠しは外しませんようお願い致します」 「こちらの階段を三段上がりますと、離れの玄関でございます。一段につき30センチ程の高さがありますので、ゆっくり一段ずつ上がって下さいませ」  言われた通り一段、また一段、両手を引かれているとはいえ、何も見えない真っ暗闇の中段差を上がるのは怖い。  ここまで歩いてくるのだって、摺り足のように恐る恐るだったのに。何が待っているのか分からない。  死刑台に上がっていく死刑囚はこんな気持ちなのかもしれないと、先日知ったばかりの死刑台を思い出してしまいゾッとしてしまった。  いやいや、ぼくが迎えるのは神様なんだから死刑とは全く違うはず。知ったばかりの知識と結びつけたくなっただけだ。子供ってそういうものでしょ。  階段を上ると、ガチャガチャと鍵を開ける音がして、少し進み草履を脱ぐように促される。人気のない離れの空気は、少しヒンヤリとして感じた。寒いわけではない。 「こちらにお座り下さい」 ゆっくりと座ると、クッションにしては大きい、マットレス? 「あの……ここにいるだけでいいんですか?もし眠っちゃったら……」 「もし眠ってしまっても御稲様が来たら自然と起きると思いますので大丈夫ですよ。くれぐれも目隠しを外されませんよう……また明日の朝に迎えに参ります」 「月希様失礼致します。また明朝に」  二人分の足音が遠ざかっていき、鍵を閉める音がやけに響いた。視覚を奪われてるから聴覚に頼っていつもより耳の聞こえが良くなってる感じがする。聴覚に頼ろうとしてるからかな。  静寂が続く広い空間。テレビの音もなく、車も通らない、いつも騒がしい弟妹の声もない。落ち着かなくなってきて足の親指同士を擦り合わせる。   試練とはなんだろう。御稲様と話は出来るのかな。唐突にポルターガイストみたいな物が起きたら………御稲様に食べられないよね?ぼくは明日の朝生きてるんだろうか。  不安な状態は嫌な想像ばかりさせられる。御稲様、ぼくを見て帰ってくれないだろうか。こんな不安な怖い思いを毎週しなきゃならないなんて。  神様を体に降ろす?名誉な事?そんなの知らないよ。ぼくはまだまだ普通にお父さんとお母さんがいて、たまに喧嘩する弟妹もいて、普通に学校に通って友達と遊んでっていう普通が楽しかった。  普通にいたかった。なんなんだよ御稲様って。嫌だよ帰りたい帰らせて怖いよお母さん。  心配しないでって言ったけどもう帰りたいよ、家族の元に返して、お兄ちゃん帰ってきちゃったの?って笑われてもいいから帰りたい誰か本当にいないの?誰か、誰か………。
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