一話

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一話

 『本家筋に力あるもの少なくなりし時は、分家の子供を連れてきて依代にするべし。  お稲(おいな)様に気に入って頂けば、その子供は再び一族に繁栄と富をもたらす。  その者の自らの自由と引き換えに…。』    近江月希(おうえつき)は10歳の年まではごく普通に幸せに暮らしていた。  父と母と弟妹の五人家族。ごく普通の両親に愛され、いたずら盛りの弟妹の面倒を見るのを文句を言いつつも楽しみ、自分も友達と駆け回り、野山で遊ぶのを楽しみ、それはそれはごく普通に育った少年だった。  変わっていたのは近江家が、代々視える者が産まれやすい一族だったという点だ。近江家の者たちは、本土から船で数時間の小さな島に暮らしていた。一族ではない者もいるが、一族が多く、島全体親戚だらけ、近江という名字の者だらけの異様な島。  小高い山もあり、川も流れ、自然豊かな風景の中に、ヘリポートと船着き場、それぞれから本家に行くまでの道のみ綺麗に整備された風変わりなその島。  島で育った子供たちにその風景はあまりに日常だったが、稀に観光客が来ると、その光景はやはり異様としか言いようがなかった。  本家に近い者にその力は出やすく、月希の産まれた家は一族でも末端の方の分家で、その血は薄れていた。月希の家では誰も力を持って生まれた者はおらず、何事もなければ普通の少年として暮らし、成長するはずだった。  本家の血を惹く者が駆け落ちし、力を持つ者が生まれる率が下がった辺りから風向きが変わった。  一族は代々視える力を使い、財界の大物たちの未来を視、時には霊に力を借り財を成した。巫女が霊に体を貸し、故人の言葉を親しい者に聴かせる口寄せも行った。  そうして生きてきた一族の本家に住まう従兄妹同士が駆け落ちした頃、本家筋の力を持つ子供が減っており、本家の長は受け継がれてきた禁じ手を使う事にしたのだ。    分家の子供を神の依り代として使う禁じ手。  依り代として選ばれたのは、長の夢見に現れた近江月希だった………。
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