幼くも馴染んでもなく

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 今、私のクラスでは千羽鶴を折っている。担任の佐藤先生へのお見舞いだ。佐藤先生は元気なスポーツマンって感じの男の人なのに(だからかな?)、よく運動中にケガをする。今回は放課後、体育館で一人でバスケの練習をしていたら足を挫いて、一ヶ月も入院することになってしまった。なので、クラスの女子で鶴を折ることにしたのだ。何羽折ったの? なんてことを、未緒ちゃんに聞けばいいのかもしれないけれど、聞いていない。 「ねえ、未緒ちゃん」  それよりも、私は未緒ちゃんに言わなくてはいけないことがあった。 「なあに?」  珍しく話しかけられたからか、ちょっと驚いた顔をされた。 「もう、一緒に学校行くのやめない?」  ずっと言おうと思っていたことなのに、口に出すのは勇気がいった。私たちはママに気を使っているだけで、本当は一緒に登校したくなんてない。だけど、いつもやっていたことを壊すのって、やっぱりちょっと怖いよね。 「うん、いいよー」  ものすごくあっけなく、未緒ちゃんは了承した。いつも通りのぼんやりした調子で、自分の気持ちを言うこともなくて。  だけど、その言い方はちょっと上から目線にも聞こえて、私は密かにムッとした。まるで、未緒ちゃんがいいよって言わないと、一緒に学校に行くのが終わらないみたい。  未緒ちゃんは皆からバカにされている。真面目だけど、勉強は普通。運動は苦手。絵やリコーダーは普通。何だかパッとしない。  しかも、身体が大きくて、ぬぼーっとしてあまり喋らないし、何を言われても言い返さないから、ますますバカにされている。私たち女子が未緒ちゃんに何かすることはないけれど、男子や大人たち(先生や私のママ)は、これ見よがしに悪口を言ったり、陰で悪口を言ったりしている。  一方の私は割と何でも得意なので、よく未緒ちゃんにこう言われる。「沙絵ちゃん、すごぉい!」  だけど、私、知ってるんだ。  本当の未緒ちゃんは、ものすごく凶暴。  いつもはその鋭い牙を隠しているだけ、ってこと。
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