幼くも馴染んでもなく

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幼くも馴染んでもなく

 多分、大人は自分が子どもだった頃のことを都合良く忘れないと、上手く大人になれないんだと思う。そんなことを直接親に言ったら、お説教されそうだけど。  だって、普通気付かない? 自分の娘が、毎朝一緒に学校に行く隣の家の子と、もう友達じゃないってこと。親の目には、一体私たちはどういう風に見えているんだろうね?  朝、お隣の家に行くと、いつも通りにドアの前に未緒ちゃんがいて私を待っていた。ぽってりした赤い頬に、糸のように細い目。ぼんやりして見える笑顔。身体が縦にも横にも大きくて、ピーチピンクのランドセルが窮屈そうだ。 「おはよ」  素っ気なく挨拶しても、未緒ちゃんの笑顔はそのままだった。 「おはよう、沙絵ちゃん。行こっか」 「うん」  ここで、私たちの一日の会話は終わる。あとは、通学路を黙って並んで歩くだけ。  重たい空気を我慢しながら、徒歩十五分の道を行く。  私の住む町は山沿いにあって、通学路の途中にも、ちらほら雑木林や畑が存在する。大型スーパーが近くにあるけど、結構田舎だと思う。  夏が近いからか、今朝はあちこちで草刈りをしていて、機械の音がうるさい。今も近くの公園で芝生を刈っていて、青臭い匂いが鼻の中いっぱいに広がっているところだ。  未緒ちゃんは、幼稚園の時に隣に引っ越してきた。小三くらいまでは、よく一緒に遊んでいたと思う。おもちゃのアクセサリーや化粧品を使ってお姫様ごっこをしたり、ハマっているアニメのキャラになりきって遊んだり。  一番面白かったのは、学校の職員室からこっそり鍵(スペアキー? 色んな場所の鍵がじゃらじゃら付いているやつ)を持ち出して、立ち入り禁止の屋上に行ったことだ。眺めが良くて、風がビュンビュン吹いていて楽しかった。未緒ちゃんは真面目キャラだけど、こういう悪ふざけにもよく乗ってくれたな。  私たちは四年あたりから段々と口を聞かなくなり、五年になった今では、何も喋ることがなくなってしまった。同じクラスなんだから、何かは話せそうに思うんだけど、未緒ちゃんを前にすると言葉が出てこなくなる。クラスでも違うグループにいて、仲良くないしね。
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