合コンに行きたい男

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合コンに行きたい男

 S県と()の境にある山中、鬱蒼(うっそう)と茂る木々が怪しくざわついている。  現場に少し遅れて短髪の刑事が臨場する。  肩を落とし、ため息をつきながら、黄色いバリケードテープをくぐる。 「勘弁してほしいっすよ、今日の合コン、勝負かけてたンだけどなぁ」 「口に出てるぞ、進藤。日を改めれば済むことだろう。黙って仕事をしろ」  沓宮敬司(くつみやたかし)巡査部長に一喝され、進藤新(しんどうあらた)警部補はさらに深くため息をつく。  沓宮の階級は進藤より下だが、捜査一課でもやり手の先輩刑事であった。  警察官は未だ年功序列である。 「簡単に言わんでくださいよ、沓宮さん。それにしてもなんというか……」  進藤が合わせていた手を解き、閉じていた片目を恐る恐る開いて「こりゃあ酷い」と顔を(しかめ)める。  沓宮が無惨な遺体に眉ひとつ動かさず告げる。 「遺体の状態が悪い。南アフリカのワニに襲われた遺体に似ているな。もっとも日本で、しかもこの山奥で、野生のワニなどいるはずがないが。——そもそもワニは古来中国では龍として神格化され……」  能面顔から表情はわかりにくい。 「ワニって……。熊ってのが妥当なセンでしょう……うへぇ…損壊がヤバいっすね、臭いも——うぷッ」 「この臭い、死臭にわずかにガソリンが混じっていないか?」 「でも、死体に焼かれた形跡はないっス。まぁいずれにしても殺人の線は薄ッスよ。身元の特定に骨が折れそうだけど」 「——看護師か…」 「え? ホトケさん女性なんですか?」 「いや、骨格から見ても明らかに男だろう」 「そうッスよね。はぁ、白衣の天使ちゃんたちとの出会いの場はお預けか……」 「日程が決まったら次は呼べ」 「——合コンの話!? まさか沓宮さん、くるつもりッスか?!」
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