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飲み会で連絡先を聞く男
高校からの親友、瑞希が結婚した。
相手は流行りのマッチングアプリで知り合った三歳年上の会社経営者。
日本人が抱える普遍的なイシューをソリューションするイノベーティブなコンサルティング会社だそうだ。
意味はわからないが玉の輿は羨ましい。
私もアプリは少し試してはみたが「弥生人には興味ない」と意味のわからないメッセージを送ってくる輩や「小学生の妹を紹介してほしい」なんて変態もいて早々に脱落した。
だから今回の飲み会には賭けていた。
瑞希の式の二次会でひさしぶりに再会した憧れの人——私がマネージャーをしていた高校のテニス部のエースで、部長だった憧れの先輩と話の流れで飲み会をすることになった。この千載一遇のチャンスに、二次会そっちのけで舞い上がる気持ちだったことをここで告白しておく。
日程変更により、後輩のコがこれなくなり、ひとり欠員が出てしまったが、先輩看護師である『まる子先輩』に半ば土下座で出席をとりつけた。——それなのに。
飲み会当日、意中の先輩は仕事の関係で遅れており、能面に鋭い目だけを貼り付けたような四十代の男と『嶋』と呼ばれている化粧をしたフェミニン男子は少なくてもタイプではなかった。
しばらく取り止めのない会話をしつつ場をやり過ごす。
この空気耐えられない——。
「もしかして、まる子さんのそのスマホケースは、クラナッハの『アダムとイブ』ですか? 」
突然、能面顔が表情を変えずに言った。
「わかるんですか? ドイツのマイナーな画家の作品なのに……。あるひとにもらったのですが、気に入っていて。使い古しですが」
「大事にされているのがわかります」
謎の会話で思わぬ二人が盛り上がっている。唐揚げが美味しいことだけが唯一の救いだ。
まる子先輩が目の前で能面と連絡先を交換している時だった——。
「ごめん美羽ちゃん、大丈夫だった? 」
「——え、あ、はい大丈夫です」
——大丈夫じゃない!と喉元まで出かかってやめた。この埋め合わせはしっかりしてもらうつもりだ。
「沓宮さん、ずいぶん楽しそうッスね——」
隣に腰掛けた進藤先輩の笑顔を能面顔が鋭く睨む。
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