［報告書：横向きのアパート］

［調査員からの報告：留守番電話に残された音声：音量操作後］

（ざわざわ、と大勢の気配）
　えー、では以上の資料を踏まえて、現地での調査を行います。（はーい）僕は今、例のアパートの前にいるんですが、確かに、気を抜いたらアパートの方を向いてしまうんです。
　これは何かありますよ。（あそこ見て）あ、アパートの非常階段に、誰かいます。

（ここから、調査員は声をひそめる）

　男の人……女の人も（うふふ）いますね。二人……いや、三人かな。（もっとだよ）あれ、四人？　（おーい）どんどん出てきます。アパートの中から。あの――（なに？）なんか、いつのまにか、非常階段に人が、（行こうよー）人がいっぱいいるんですけど。人が、もうすずなりになって、（ぶらさがってる）階段に。あの、僕に、手を振ってます。（おーい）（おーいおーい）これ（おーい）反応しない方がいいですよね？　（おーーーーーーい）

　あ、あの、ちょっと一回電話切りますね。（わかった）これちょっと、いったん離れます。（だめだよ）あ、あのー、僕どっちに、どっちに逃げれば（こっちだよ）いいんですかね。（こっちおいで）これ、ぼく、ぼくあの、アパートから目を、（おーい）目を離せな（おーーーい）いんですけど。ぼくどう（おーい）したらいいですかこれ。あの、（おーい、おーい）すいません、切りますね。電話切ります。（おーい）ごめんなさい。ちょっと行ってきます。（うん）あの、呼んでるんで。またかけます。（またね）すみません。失礼します。（はやくー）あ、はい、すぐ行きまーす。