［報告書：横向きのアパート］

［調査員からの報告：留守番電話に残された音声］

　えー、では以上の資料を踏まえて、現地での調査を行います。僕は今、例のアパートの前にいるんですが、確かに、気を抜いたらアパートの方を向いてしまうんです。
　これは何かありますよ。あ、アパートの非常階段に、誰かいます。

（ここから、調査員は声をひそめる）

　男の人……女の人もいますね。二人……いや、三人かな。あれ、四人？　どんどん出てきます。アパートの中から。あの――なんか、いつのまにか、非常階段に人が、人がいっぱいいるんですけど。人が、もうすずなりになって、階段に。あの、僕に、手を振ってます。これ反応しない方がいいですよね？　

　あ、あの、ちょっと一回電話切りますね。これちょっと、いったん離れます。あ、あのー、僕どっちに、どっちに逃げればいいんですかね。これ、ぼく、ぼくあの、アパートから目を、目を離せないんですけど。ぼくどうしたらいいですかこれ。あの、すいません、切りますね。電話切ります。ごめんなさい。ちょっと行ってきます。あの、呼んでるんで。またかけます。すみません。失礼します。あ、はい、すぐ行きまーす。