分かれ道

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「お父さん、お母さん、私はラークを愛しています。あの人と結婚したいんです」 「イルマ、そんなことは許されない」 「どうして好きな人と一緒になっちゃいけないの?」  家族そろって夕食を食べた後の楽しいひとときが、修羅場になりそうだった。  気が弱い次男のジードはただおろおろしていた。どうしよう……。兄さん、母さん、何とかしてくれ。  父親のガンツは、娘の頬に平手打ちを食らわせた。短い悲鳴を上げて、イルマの体はふっ飛んだ。  母親のアルマは、必死になって夫を止めた。 「止めて。娘の言い分も聞いてやって」  父親は興奮して、「聞くまでもない。一族の掟に反することは許されないとお前だって知っているだろう」とにべもない。  ガンツは、長男のザイードに命令を発した。 「隣近所を回って、皆を呼んで来い。緊急会議をする」  ザイードはうなずいて隣へ走った。 「おい、ジード、お前はイルマが逃げないように、手と足を縛って、あいつの部屋に閉じ込めておけ」  それはやり過ぎじゃないですか? そうジードは言いたかった。しかし、父親から強く言われると、根が臆病なジードは、うなだれて命令に従った。  皆の顔が揃うとすぐに、一族の緊急会議が始まった。 「みんな、忙しいところすまない。実は長女のイルマが見初めた男がいると言うので、どこの家の者かと心が弾んだんだが……。何と、相手はこともあろうに、やつらの仲間だったのだ」 「イルマは狂っている」と声が上がった。父方の叔父の一人が立ち上がった。 「その通りだ。そもそも、やつらとわしらは種族が違う。結婚なんて許されるはずはない。わしらの掟で決まっておることじゃ」
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